箱根駅伝へ“タイムよりレース”の指導重視 帝京大監督「記録が出ただけでは意味がない」
敢えてペースを落とし、常にレースを想定して練習
帝京大学の練習は、常に実戦を想定している。例えば400メートルのインターバルのスピードは、高校生でも走れるペースに設定。敢えて、ペースを落としているのは、レースをイメージしているからだ。400メートルのインターバルのスピードで、ハーフを走れるかと言われると、ほぼ不可能だ。絶対的なスピードを上げることに苦心するよりもある程度のスピードを維持し、落とさないで走り切る力をつけた方がレースでは活きる。
――タイムは、それほど重視しないという考えですか?
「私は、必ずしも5000メートルを13分台で走る練習をしなければいけない理由はないと思っています。スタートして最初の5キロ、10キロは後ろにいるかもしれないけど、ゴールしたら前にいて、日本記録に迫っている。日本人の気質としては、そういうレースの方が得意だと思うんです。そのためにインターバルでは休まない。連続して走ると苦しいけど、レースを想定すると、この方が確実に力になりますね」
――レースの結果を見ると極端にブレーキになることが少ないですね。昨年の箱根駅伝も1、2区以外はコンスタントに結果を出していました。
「それは私が1人でやったのではなく、帝京大のサポートのおかげです。大学にはスポーツ医科学センターがあって、栄養面、フィジカル面でのサポートはもちろん、リサーチもしてくれるんです。グラウンドに来て、選手がどんな練習をして苦しんでいるのか、どんな練習が楽なのかなどを見てくれています」
――そこまでカバーしていかないと箱根では勝てない。
「箱根駅伝は、以前は1区間、ブレーキがあっても他でなんとか取り返すことができたんですけど、今はたった一つのミスが命取りになるし、レースに大きな影響を及ぼします。ですから準備が大事。レース前はかなり慎重になりますね。失敗させられないので、レース直前はレールを敷いてしまいます。学生は本番に向けてテンションが上がるので、ついやり過ぎてしまうんですよ。だから、『頑張りどころを間違えるなよ』って学生たちに言い聞かせています」
――箱根前は、練習量をかなりセーブするのですか?
「レースは、いかにフレッシュな状態で臨めるかだと思うんです。そのために練習量を減らすのはいいけど、質を落としたり、動きを変えてはいけないですね。これまでジョグで90分走っていたのを40分にするのはいいけど、質を落として接地や動きまで変える必要はないんですよ」
ジョグについても、ただ距離を稼ぐためだけにするのでは意味がないと説く。なんのためのジョグなのか。一つひとつの練習において、考えることを中野監督は、学生に求めている。そういう集合体でなければ、箱根で強豪校相手に厳しい戦いを演じ、シード権を獲得できる10位以内に生き残ることはできないからだ。
■中野孝行(帝京大学駅伝競走部監督)
1963年生まれ、北海道出身。白糠高校卒業後、国士舘大学へ進学し箱根駅伝に4回出場。卒業後は実業団の雪印乳業に進み、選手として活躍した。引退後は三田工業女子陸上競技部コーチ、特別支援学校の教員、NEC陸上競技部コーチを経て、2005年から帝京大学駅伝競走部監督に就任。2008年から15年連続でチームを箱根駅伝に導いている。
(佐藤 俊 / Shun Sato)