変わろう、野球 筒香嘉智の言葉「子どもは大人の顔色を窺いながら野球をしている」
「今やっている指導や練習が本当に子ども達の将来につながるものなのか」
振り返ってみると、ロサンゼルスでも同じような光景に触れていたという。筒香は2011年からシーズンオフになるとロサンゼルス近郊にある施設で自主トレーニングを行っていた。何度か訪米を重ねるうちに、知人を介した縁で現地の指導者と交流したり、プロアマを問わず練習や育成現場に実際訪れたり、自身の見聞を広める機会があった。そこでも最初に心惹かれたのは、プロアマ問わずに選手が伸び伸びとプレーする姿であり、モチベーションを高める声掛けをする指導者の姿。アメリカやドミニカ共和国での風景が、なぜ日本では見ることができないのだろう。そんな疑問を持ったのも、自然の流れだったのかもしれない。
実際に指導者の経験もないくせに――。そう感じる人もいるだろう。筒香もその点は承知しているし、ほぼボランティアのような形にもかかわらず、週末の時間を子ども達のために割く指導者への敬意を持ち続けている。決して指導者が注ぐ情熱や苦労を否定するものではない。ただ、今やっている指導や練習が本当に子ども達の将来につながるものなのか、一瞬立ち止まり、客観的な視点で見直すきっかけになればいいと感じている。
自分を客観視することの大切さは、日々打席に立つことで学んだ。自分が正しいと思って繰り返すスイングも、動画に撮って見返してみると、自分が想像していたものとは違うことがある。
「僕は常に、自分を客観的に見る目を持つようにしています。もう1人の自分が、少し離れた場所から見ている感じ。気持ちが入り込みすぎて視野が狭くなることもある。状態を崩している時は、大概『これが、これが』と思い込みすぎていますね」
子ども達が持つ才能が大きく開花するようにと思って始めたはずなのに、いつの間にか指導者の思い入れが強くなり、子ども達が怒られないように大人の顔色を窺いながら野球をするようになっていないだろうか。いいと思っていた指導が、実は子ども達の将来を危ぶむものになっていないだろうか。主役はプレーする選手=子ども達であり、監督やコーチ=大人ではない。
「たとえ結果的に野球を離れる選択をするとしても、将来、子ども達が1人の人として持つ可能性を広げる手助けをしたい」
筒香が発する言葉の1つ1つは、この思いから生まれている。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)