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ファジーカスが好例「毎晩21時に寝て酒も飲まず…」 プロ初の全クラブ参加、外傷障害調査が育成年代に残すもの

大事なのは「26歳頃までに何ができるか」

 まず両氏が提言するのは、育成環境の充実だ。吉岡氏は「ユース年代に負った故障を抱えたままトップチームに入ってくる選手が多い」ことに対し問題提起する。

吉岡氏はピーク手前の歳までに何ができるかが大事だと語る【写真:小野瀬健二】
吉岡氏はピーク手前の歳までに何ができるかが大事だと語る【写真:小野瀬健二】

吉岡「トップチームの選手の多くが、何らかの負傷を抱えた状態で加入してきます。たとえ負傷歴があってもそれを持ち越さず、しっかりした治療とリハビリを経た状態で入って来てほしい。そのために、育成年代でできることはたくさんある。ユース世代での負傷がその後のキャリアにいかに悪影響を及ぼすか。それを現場の指導者が感じ取れるレポートであってほしい。

 第一歩は、選手個人が早い段階からコンディショニングの意識を高めることだと思います。例えば高校・大学のうちから食事・睡眠・フィジカルトレーニングの重要性を理解してしっかりと実践できていれば、その後のプロキャリアはまったく違うものになるはずです」

 多くのバスケットボール選手のピークは26~28歳。選手として完成しつつあるこの時期にコンディショニングの重要性を痛感したとしても、急に意識や毎日の習慣を大きく変えることは難しい。大事なのは、ピーク手前の26歳までに何ができるかだと語る。

吉岡「ユース年代から20代前半のうちに、どれだけ自己犠牲を払って自分の心と身体と向き合えるか。食事・睡眠・フィジカルトレーニング。アスリートにとって当たり前のことを、いかに高い精度で長年継続できるかがカギ。そのための啓蒙を、なるべく早いうちからやっていけたらと思います。

 実際、川崎にはお手本となるような素晴らしい選手がいました。例えば長谷川技、篠山竜青、そして現在は群馬クレインサンダーズに所属する辻直人。彼らは食事、睡眠について自ら勉強して意識を高め、家庭を含めてアスリートとしてトップレベルで長くプレーできる環境を自分で作っていました」

 そしてニック・ファジーカス。2012年に来日し、12シーズンにわたり日本でプレーし続け、惜しまれながら引退した。最後のシーズンは怪我の影響もあり12試合欠場となったが、前シーズンの2022-23シーズンまでの11年のレギュラーシーズンで、欠場はわずか12試合のみ。ファジーカスがここまで長期間にわたって活躍できたのは、コンディションへの高い意識があったからだという。

吉岡「彼は選手として成功した今も、毎日必ず20時半から21時には寝ているそうです。生活パターンを変えず、お酒を飲んだりもしない。アスリートとして見習うべき点が非常に多い選手です。彼らのような選手に子どもたちが憧れる。そんな環境になってほしい。

 また、そういった意識の高い選手が増えていけば、アスレティックトレーナーの仕事の内容も大きく変わっていくでしょう。現状、アスレティックトレーナーは選手の要求に応えるポジションになっていると思います。でも、本来それではダメ。アスレティックトレーナーの本来の役割は選手の負傷のケアにとどまらず、パフォーマンス向上に寄与すること。その意味で選手に必要とされる存在にならなくてはいけない。それがアスレティックトレーナーの仕事の幅を広げますし、チーム内そして社会全体での立場も、より重要なものになっていくはずです」

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