アスリートにとって睡眠が重要である理由 指導者も試合、練習、栄養ほど関心なき現実
「睡眠不足」は集中力や疲労回復に直接影響する
――睡眠の質が悪いとどうなってしまうのでしょうか?
「まず、集中できず、日中にぼんやりとしてしまいます。選手たちが、練習や試合中に怪我をする確率が上がることも分かっています。また、睡眠の質が悪いと運動能力全般にも悪影響を与えることも分かっていて、1週間ほど通常より余計に寝ただけでもパフォーマンスが上がったという研究結果もあります。
特に影響を受けるのが集中力や注意力です。2週間~4週間程度十分な睡眠を取ってもらったところ、競技中に特別集中力を必要とする行為、たとえばテニスのサーブ、バスケットボールのシュートなどの成功率が向上したという研究結果もあります。これは、アスリートが慢性的な睡眠不足に陥っている証拠でもあります。
短距離走など瞬発力が必要とされる種目では、仮に試合前日に緊張で眠れなかった選手でも、火事場の馬鹿力でいつもと同じようなパフォーマンスを出せることもあります。ただ、射撃など、プレー中に常時集中力が求められる種目ではそうはいきません。寝不足は致命的な問題になる可能性があるのです」
――睡眠の質の良し悪しは、とりわけ集中力や注意力に大きな影響を与えるのですね。
「そうですね。ほかにも、睡眠不足は持久力にネガティブな影響を与えることが分かっています。疲労回復が遅れることも分かっていて、ウエイトリフティングなどのレジスタンス運動(※7)後の疲れが取れにくくなります。
睡眠はどんな競技においても、多かれ少なかれパフォーマンスに大きく作用します。指導者の皆さんは、選手の睡眠の質にも目を配っていただければと思います」
――日中のトレーニングで学んだことの「定着」にも影響はあるのでしょうか?
「もちろんです。記憶の定着に十分な睡眠が影響することは知られていますが、睡眠が運動学習に与える影響も大きいと考えられています。睡眠不足だと日中に学んだ技能の定着が遅れるという研究もありますから」
――スポーツにおける睡眠の役割は、パフォーマンス向上以外にもありますか?
「はい、もちろんです。まず、当然ですが疲労回復手段としての役割があります。睡眠は、スポーツ選手にとって身体の状態を整えるコンディショニング(※8)の点で非常に重要です。
また中高生にとって、特に重要なのが成長ホルモン(※9)を分泌する役割です。睡眠にはいくつか段階があり、その中でも特に徐波睡眠(※10)と呼ばれる、睡眠の前半に訪れる深い眠りのとき、成長ホルモンは多く分泌されます」