選手、指導者にとって「幸せ」とは何か 為末大「私が考える『良い指導者』とは…」
「影響を与えたい」という欲求との葛藤
世の中で名指導者と呼ばれている人は、多くのメディアで取り上げられ、そこでこれだけの影響を与えていると、たたえられています。
どんな指導者でも「名指導者と言われるようになりたい」という気持ちが湧いてくるのは自然なのかもしれません。指導者の心の中は、人に影響を与えたいという欲求とのシビアな戦いがあるのではないかと思っています。
「影響を与えること」は指導者としての存在意義につながります。相反して、選手を手放すことは一抹の寂しさを感じるでしょう。指導者として、気持ちのバランスをうまく保つのは実に難しいと思います。いくら優秀な指導者であれ、それを完全に克服することはできないかもしれませんが、抑制しながらうまくやっていく術を見つけた指導者こそが、選手を自立に、幸せに導くのではないでしょうか。
(記事提供TORCH、第3回に続く)
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■為末 大 / 為末大学学長
1978年生まれ、広島県出身。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者。現在は人間理解のためのプラットフォーム為末大学(Tamesue Academy)の学長、アジアのアスリートを育成・支援する一般社団法人アスリートソサエティの代表理事を務める。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。
(スパイラルワークス・松葉 紀子 / Noriko Matsuba)