選手の“心”に寄り添える指導者とは 為末大「落ち込んだ時こそ手腕が一番試される」
指導者は、少しずつであっても前進していることを伝えてほしい
一生懸命練習していても成績が出ない、どうもうまく気持ちが乗らない、選手にはそんなときがあります。特に若い選手ですと、成績が出ないとどうしても落ち込みがちです。選手が面白くない気分になったときこそ、指導者としての手腕が一番試されるのではないかと思います。
選手が落ち込んでいるとき、指導者が俯瞰して見えているものを伝えることがカギになると思います。落ち込んでいる選手本人からすれば、がんばってトレーニングしても変化がないように思えるでしょう。しかし指導者の視点から見れば、さかのぼって同じ選手の過去と比較したとき、前進している部分を必ず見つけることができるはず。そこを選手に伝えれば、選手は今の状態を受け入れ、次のステップへ進むことができると思うのです。
選手が落ち込んでいる場合、指導者は少しではあったとしても変化が出ていることや、トレーニングの成果が結果として表れるまで時間がかかるということを伝えなければいけません。また、指導者が選手に「内面が変われば、やがて外側が変わる」ということを伝えることが大事なのです。スランプは現状を変えるチャンスです。悩みながら新しいことにチャレンジをすることで、選手自身の中にあるよくない「癖」に気づくことができます。人によっては、自信のないときにしか受け入れられない話もあるので、指導者が選手にそうした話をするいい機会になるのです。
指導者がどう選手にアドバイスするのか、「言葉」はとても大事です。しかしそれよりも選手自身が成長を止めているということに気づいてもらう、それが一番、いい形ではないかと思います。選手自身が「こうなりたい」というイメージがあるとします。スランプのときにはそれに対してどこか違和感があるのだと思いますが、実はそういうイメージから生まれた違和感を手放せた方が、スランプを脱するだけではなく、今後の選手の成長につながります。
指導者ばかりでなく、選手にもできることがあります。それはリーダーシップを発揮することです。ここで言うリーダーシップとは、自分の目の前で起こっている出来事をこうなったらいいなという方向に自ら導いていくことを指しています。