指導者の役割は「視点」を与えるだけ 近江サッカー部監督×楽天大学学長のチーム育成論
サッカーを知るためにサッカー以外のものを見る、そのために世界を旅する
前田「大学に入ってから休みのたびにバックパッカーをやっていました。カバン1つで南米の国に行くとヒッピーのような人と出会う機会がありました。そのなかの1人が『自分の理想やあるべき姿で、社会のなかでうまく生きていけたら格好いい』と言っていました。同じ生活をしているのは簡単だけれど、違う世界に飛び込んで自分の思いを周りに伝えながらグレーな色でやっていくのが良いと言っていたことが印象に残っています。白か黒かではなくグレーなところでしか社会では生きられないと思います。そのなかで自分で夢中になれるようなチューニングができるとハッピーだし、そういう子たちになってほしいなと思っています」
仲山「みんな、『自分が正しくて、相手が間違っている』と思いがちですが、実際は『どちらもそれぞれ正しさがある』んですよね。お互いの正しさの『間が違う』のが間違いということで、後はすり合わせながら『間』をチューニングして、ほどよい『間合い』を見つけることが『グレー』のニュアンスですよね」
前田「仲山さんとお会いした1週間後には、ヨーロッパに1か月行っていました。つい先日までイタリア、イギリス、オランダ、スコットランド などのヨーロッパにいて、新型コロナと入れ違いで帰ってきました(笑)」
仲山「イタリアには何を目的に行ったのですか」
前田「サッカーの試合を観に行くこともそうですが、感度の高いものに触れるというのも目的のひとつでした。普段目にしない芸術的な場所やミュージカルを見るなど、本物と呼ばれる物を見た時に自分はどう感じるのかを知るためです」
仲山「どんな学びがありましたか?」
前田「サッカーは7試合ほど観たのですが、ヨーロッパはサッカーがひとつの文化になっていて、熱狂的な観客が多かったです。相手チームに中指立てて『F××k!』とか叫んでいるお爺さんもいたのですが、日本ではほとんど見ない光景ですよね。そこまで熱狂できるような、素晴らしいものに接しているのだなと思いました。美術館やミュージカルも観ましたが、生と死がリアルなほど人間は熱狂するのかもしれないと感じましたし、とても感動が大きかったです。美術館のなかには面白い言葉がたくさん落ちていたのですが、面白かったのは仲山さんも言っていた「一つの分野を極めた後にほかの分野を極めると掛け算でものすごいものができる」というものです。掛け算を実践している芸術家の方もいて、こういうところからインスピレーションがあるのかなと1人で想像して楽しんでいました」
仲山「現時点での課題や問題意識は何ですか?」
前田「最近だと3月の頭から20日まで滋賀県では練習が自粛になっていて、生徒は家にこもりっぱなしの状態になっていました。自粛明けからのトレーニングでは、インターハイまで残り少ないし、チームを作らないといけないという意識で最初の1週間ほど接していたことに気付きました。今年に入るまでは自分がやるよりも選手がどう思うかを高めなければいけないと思っていたのに、また同じことを繰り返してしまっている自分に気付いて、次の1週間からどう立て直すかを考えていました。僕もまだ未熟なので反省しながらやっています」
仲山「自分で『必死モード』になっていると気付けるようになったのですね。それは夢中体質になれてきた証拠ですね(笑)」
前田「まさにそうです。なので、仲山さんの本は職員室と自宅に1冊ずつ置いてあります。いつもそばに置いて、繰り返して読み返せるようにしています」