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野球医学は「治して終わり」ではない 「野球選手の未来をつくる」再発予防の道

馬見塚氏は怪我などについて指導者が新しい知識を得る仕組みの必要性を説いた【写真:齋藤暁経】
馬見塚氏は怪我などについて指導者が新しい知識を得る仕組みの必要性を説いた【写真:齋藤暁経】

問題は「指導者の誤った知識」ではなく「知識をアップデートする仕組みや場がない」こと

――馬見塚先生がジュニア育成サポートを行っている中で感じる、指導現場の意識や現状を教えてください。

「急激に変わりつつあるという認識ですね。野球はかなり遅れていましたけども、やっと変わり始めました」

――どのように遅れていると感じましたか?

「例えば、研究を見るとストレッチは30秒ぐらいやらなければ効果が十分得られないと言われていますが、未だに10秒程度で終わるチームが多いです。とくに寒い時期は30分に1回はストレッチをしないと効果が持続しないと言われています。

 野球のようにプレー中あまり動かない競技は、ストレッチをこまめにやらないと身体が固くなってくる。そういった生理学的なことを学んでいれば、練習の合間にストレッチを行うようにできるはずです。

 練習の合間にストレッチをしていれば、クールダウンで行うストレッチは要りませんよね。しかし、まだウォーミングアップでストレッチをして、クールダウンでもう一度ストレッチをするという固定概念のもと練習メニューを組んでいるチームがたくさんあります。このような観点からも野球におけるスポーツ科学を取り入れることへの遅れを感じます」

――中高生の部活指導において、指導者の意識や知識で故障のリスクはどのくらい変わりますか。

「すごく変わります。もちろん選手に怪我をさせたいと思っている指導者はいませんが、自分自身の経験や他校が実施している方法といった情報だけを頼りに、トレーニングを指導しているケースが多いのだと思います。ただ、それは指導者の知識だけの問題ではなく、指導者が新しい知識を得たりアップデートする仕組みや場がないことに大きな課題があると考えています。

 それらをシステム化し、整備する方法のひとつとして、まずは指導者ライセンスを活用してベースとなる知識のアップデートを得てもらう。あとは生理学的・コーチング学的背景、スポーツ障害の背景にある知識習得をお願いしたいですね。コンディション管理を『ONE TAP SPORTS』で行い、取得データの分析を深め、根拠を持って指導やトレーニングに生かすのもひとつの方法です」

――指導者に対してサイエンスの重要性を伝える際、気をつけていることはありますか?

「あえて専門用語を使うようにしています。今の時代、わからない言葉を書き留めて、後でインターネットで調べることはできますから。自分で調べることでいろんな情報に触れる機会が増えますから勉強になると思います。

 また、何から勉強したらいいのか分からないという人に向けて、Facebookに『野球医学の教科書』というページを設けて発信しています。難しい話を全部書くことはできないので、キーワードを書いてそれを皆さんが学べるような内容を心掛けていますよ。

 指導者の多くは経験や感覚に従って良いと思うトレーニングや指導を行っていると思いますが、そこに、科学的な裏付けやロジックなどの根拠が加われば、とても良い指導に変わっていくと考えています」

――この先テクノロジーがますます進化していくと思いますが、選手が自分のパーソナルなデータを集め、自分のことを自分で管理できるようになる時代には、指導者はどうあるべきでしょうか。

「どんなにテクノロジーが進歩しても、運動感覚のコツをテクノロジーだけで伝えるのは難しいと思います。将来的には、動作診断はテクノロジーで解決できるでしょう。しかし、その先の、動作の感覚や改善方法をどう伝えるかは指導者の役割として必ず残ります。

 英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン氏が『2030年には47%の仕事が機械に代替されるリスクがある』という報告をしました。そこに、人間に必要とされるスキルというのも発表されているのですが、その中に戦略的学習力や心理学がある。これってコーチングにも必要なんです。今後、AIコーチが出てくると思いますが、かといって全てがテクノロジーでカバーできるわけではないでしょう」

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