野球医学は「治して終わり」ではない 「野球選手の未来をつくる」再発予防の道
野球選手の怪我やトレーニング方法、人材育成に悩んでいる指導者・保護者は多いのではないだろうか。選手の故障予防や育成のために必要なものとは? 整形外科医から始まり、機械工学、野球現場のマネジメント、スポーツ科学と、さまざまな道をたどった経験を生かし「ベースボール&スポーツクリニック」の野球医学センター長を務める野球医学専門家・馬見塚尚孝(まみづか・なおたか)氏に話を伺った。
野球医学専門家・馬見塚尚孝インタビュー
野球選手の怪我やトレーニング方法、人材育成に悩んでいる指導者・保護者は多いのではないだろうか。選手の故障予防や育成のために必要なものとは? 整形外科医から始まり、機械工学、野球現場のマネジメント、スポーツ科学と、さまざまな道をたどった経験を生かし「ベースボール&スポーツクリニック」の野球医学センター長を務める野球医学専門家・馬見塚尚孝(まみづか・なおたか)氏に話を伺った。
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――馬見塚先生は、筑波大学で整形外科に勤務し、現在は「医師・野球医学専門家」として活動されていますが、医師を目指した当初からスポーツドクターを志していたのですか?
「医師を目指した当初は、野球の日本代表、今でいう『侍ジャパン』のチームドクターになりたかったのですが、医師になった後、一般整形外科医としての魅力を知り、一旦スポーツドクターを目指すのをやめることにしました。
そう思うようになったきっかけは医師になって4~5年目の時、当時日立製作所水戸総合病院(現・ひたちなか総合病院)で、整形外科医をされていた中島宏先生と出会ったことでした。
中島先生とは『上司と部下』の関係でしたが、私とも常に同じ目線で接しておられる、新しい時代のリーダーでした。また、外来では患者さんの話をよく聞き、丁寧に手術や治療を行って、今まで歩けなかった患者さんがスタスタ歩いて帰る姿を見て、中島先生のように『スポーツドクターよりも一般の方々を診療する整形外科医の方が多くの人を助けられるのではないか』と感じたのです。
脊椎疾患を主に診る整形外科医として働いているうちに、『研究の能力が足りない』と痛感し、34歳で筑波大学の大学院に入りました。大学院では、携帯電話にも使われている『慣性センサー』を用いて、腱反射の診察を定量化するシステムを開発するという研究に携わっていました」
――2007年からは「つくば野球研究会」の一員として、野球に深く関わっていらっしゃいますが、研究会ではどのようなことをされていたのでしょうか?
「つくば野球研究会は、筑波大学の前整形外科医・落合直之教授が子どもたちの肘の手術をするときに、怪我の状態が非常に悪くなってから手術する例が多いことから『野球界、こんなんじゃだめだろ!』と思い立ち、作られた研究会です。
大学まで野球をやっていたのもあって、私が研究会のマネジメントを担当していたのですが、その時に野球の現場を知る筑波大学硬式野球部のスタッフにも入っていただきました。
整形外科・野球の現場・コーチング学・スポーツ科学、それぞれの出身者が一堂に集まって議論し、学ぶ会を10年ほどマネジメントしてきましたが、この活動を通じて実は分かっているようで分かってないことがたくさんあることを知りました。特に野球の現場に改めて出てみて、私は野球というものをまったく分かっていなかったんだなと気づきました」