「スポーツって楽しい」と思えるか 日独で変わらない「最初に出会う指導者」の重要性
スポーツの魅力を伝える“種まき”のような仕事が、先生や指導者にとって何より大切
先生や指導者には正直当たり外れがあるし、相性もある。国や地域に関係なく、どこでも起こりえることだろう。ドイツでだって普通に起こりえることだ。
でも最低限、子供たちの人権を守り、子供の成長について真剣に考える人間性は持っていなければならない。そしてそれを専門としている教育者や指導者であれば、我が子のことにだけ目がいきがちな保護者に正しいものの見方をじっくり伝えていくことも大切なのだ。
先日、息子らがサッカーをしているクラブの幼稚園チームの監督と話をする機会があったのだが、「週末にチームとして初めての試合があるんだけど、親からの連絡がとにかく多くて……」と苦笑いをしていた。
「みんなが出られるように2チームに分けて出場するんだけど、『なんでこんな組分けなの?』『こうしたほうが勝てるんじゃないの?』『なんでうちの子はこっちのチームなの?』ってひっきりなしに。まだ5歳、6歳の子供たちだよ。初めての試合だよ。もちろん一生懸命にサッカーをしてほしいと思うけど、だからって『勝つためには』とかを考えるのは違う。
子供たちにはいろんなことを学べる環境が大切でしょ。仲間と一緒にプレーする。協力する。いろんなプレーにチャレンジする。そうしたことを支え合うのが成長につながるわけだよ。そのあたりを丁寧に説明したから、分かってくれてもらえたらいいけどね」
日本でも、ドイツでも、学校やスポーツクラブは多くの子供にとって「初めて」のものに触れる最初の入り口になるところだ。本来どんなものにも面白い要素は隠れている。その魅力にどうやったら子供が気づいてくれるか。その面白さの種まきのような仕事が、先生や指導者にとって何より大切な仕事なのではないかと思う。
何から何まで、誰にとっても100%面白いということは現実には不可能かもしれない。でも、そのスポーツが大好きでワクワクしてグラウンドに走ってくる子供たちが、また次の練習を楽しみに笑顔で帰っていく日常を当たり前にすることはできるはずなのだ。子供たちの育つ環境は誰かではなく、そうやってみんなで作り上げていくものではないだろうか。
(中野 吉之伴 / Kichinosuke Nakano)