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性的虐待・暴力・しごきに子ども自ら「NO」を 米スポーツ界で動き始めた新たな教育

「からかい、しごき、虐待は、ゲームの一部ではない」と強調

 中学生や高校生向けでは、指導者やチームの関係者と自分との適切な関係について考えてもらえるよう、より具体的な例を挙げている。

「テキストメッセージでコーチ、トレーナー、そのほかの大人から、個人的なメッセージが送られてくる。会おう、一緒に(試合会場まで)移動しないか、と誘われる」

 このように、自分にだけ、個人的な内容のメッセージが送られてくる場合は、保護者や信頼できる大人に話すことを促している。

 中高生向けには、自分や友達が何らかの被害に遭っているときはセーフスポーツに連絡をするよう、連絡先も明示。「性的被害に遭ったのは、あなたのせいではない」「あなたはひとりではない」と助けを求めるように伝えている。

 また、「からかい、しごき、虐待は、ゲームの一部ではない」ことも強調。こういった行為とチームの結束を高めることとは、全く関係のないことだと教えている。

「アルコールを飲まなければチームの一員ではない、飲めばチームの一員である」

 何かを強要したり、いやな思いをさせることで組織への忠誠心を試す新人への通過儀礼のようなものはスポーツの一部ではない、という説明もしている。

 一般向けでは「コーチとアスリートの力関係」などを取り上げていた。

「アスリートはコーチを信頼し、コーチは彼らを見守り成功してほしいと願っている。しかし、スポーツ外でも特別に接近できるように、アスリートからの信頼を悪用することがある。また、信頼を悪用して、コーチの行為がどこまで適切なものかを試そうとする」

 コーチは先発メンバー、ポジション、出場時間を決める力を持っているが、これらの権限によって、選手を操作、支配することは権力の濫用であるとも教えている。

 選手たちには、自分の受けている指導は、適切なものか、不適切なものか、権力の濫用か否かを判断する基準を知り、声を上げる方法を学んでもらう。スポーツ組織、チームを運営、指導する大人には、虐待的指導やいじめを生み出さない環境づくりのためにガイドラインを設けて、やってはいけないことを明確にしていくことや、不正行為の訴えを聞いたときには、自分だけで問題を解決させるのではなく、セーフスポーツなどに通報することを求めている。

 このやり方が唯一の正解ではないだろうが、米セーフスポーツでは、弱い立場の選手が声を上げられるように教育と環境の整備で犯罪や虐待的指導を防ごうとしている。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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