大山加奈に聞く 今、変わる「脱・勝利至上主義」で日本のスポーツは強くなるのか
元バレーボール日本代表の大山加奈さんが「THE ANSWER」のインタビューに応じ、「スポーツ界の勝利至上主義の弊害」について語った。前後編で届ける後編は「『脱・勝利至上主義』で日本のスポーツは強くなるのか」。近年、昔ながらの勝利至上主義、スパルタ指導に対するあり方を見直そうとする気運が高まっている。大山さん自身、その先駆者の一人として引退後、積極的にメッセージを発信してきた。
大山加奈インタビュー「スポーツ界の勝利至上主義の弊害」後編
元バレーボール日本代表の大山加奈さんが「THE ANSWER」のインタビューに応じ、「スポーツ界の勝利至上主義の弊害」について語った。前後編で届ける後編は「『脱・勝利至上主義』で日本のスポーツは強くなるのか」。近年、昔ながらの勝利至上主義、スパルタ指導に対するあり方を見直そうとする気運が高まっている。大山さん自身、その先駆者の一人として引退後、積極的にメッセージを発信してきた。
しかし、大山さんが「小学生年代の全国大会はなくした方がいい」と自身の意見をメディアを通じて発信すると、未だに「それで日本のスポーツ界は強くなるのか」などと否定的な声も届くという。果たして、本当にそうだろうか。後編では、敢えてその問いを真正面からぶつけ、見解を聞いた。大山さんが「これからは“指導者を選手が取捨選択する時代”になっていく」と語った理由とは――。
◇ ◇ ◇
ここ数年、スポーツ指導をとりまく空気感は変わった。
高校野球の球数問題を発端に、体罰禁止はもちろんのこと、精神論、根性論による過度な追い込みから生まれる怪我防止など「勝利至上主義の弊害」に対し、さまざまな競技でアスリート、専門家から声が上がり、そうした流れを見直そうという動きが起きている。
引退後、先駆者の一人としてメッセージを発信してきた大山加奈さんは、その変化をうれしく思っている。
「やっと、こうした考えがすごく広がってきて今、良い傾向にあると思います。バレーボール界の中だけで変えようと思ってもなかなか難しく、スポーツ界全体で横のつながりを作ってムーブメントを起こしていかないと変わらないと思っていました。ちょっとずつ、そういう動きが起きつつあるので、変わるきっかけができてきていると感じます」
他競技のアスリートとの交流イベント、ディスカッションにも積極的に参加。同じ問題意識を持っているからこそ、受ける刺激は大きい。
「バレーボール界だけではすごく狭いですが、特に昔からある伝統的な競技は同じような思考、環境でジュニアスポーツが行われていると発見したり、逆に新しいスポーツだと全然違ったり。スポーツによって日本の中でもすごく違うんだと感じています」
しかし、着実に変化が生まれているからこそ、立ち止まって考えたいこともある。
大山さんらの活動は、ともすれば「脱・勝利至上主義」とラベリングされ、その一部を切り取って「楽にスポーツをやりましょう」「怪我さえしなければいい」というメッセージに受け取られかねない。
変化を正しい方向に導くため、そうしたリスクとどう向き合い、メッセージを発信しているのか。
「例えば、私は『小学生年代は全国大会をなくした方がいい』という発言をしていますが、そのたびに『それでは競争力が落ちて、日本のスポーツ界は弱くなるんじゃないか』という意見もたくさんもらいます。でも、スポーツをやる意味、スポーツの存在価値は“日本が強くあるべき”というところなのか? そうじゃないんじゃないかと、私は思っています」
大山さんが例に出した全国大会にまつわる意見。その真意に「脱・勝利至上主義」と「競技力向上」の関係を考えるヒントがある。
「私は全国大会をなくしたら、むしろ良い選手がたくさん育つのではないかと思うんです。地域のリーグ戦を多くやると、今まで試合に出られなかった選手が出られるようになることもあります。一発勝負のトーナメントではどうしてもメンバーが固定され、控え選手はずっと試合に出られないということが起こり得ます。それがなくなってみんなが試合に出られるようになれば、競技レベルが上がると思います。
もしかしたら、今まで試合に出られず、持っているポテンシャルを発揮できずに終わっていた選手がぐんぐん伸びていくかもしれません。怒られず、萎縮しないでプレーできれば、チャレンジする、トライすることができるようになり、押さえつけられていた、型にはめられていたものがノビノビとプレーすることで、よりアグレッシブにプレーできるかもしれません。競技レベルは上がると、私は思っています」