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バスケ界で痛感した日本と外国の差 成長期スポーツ選手の「成長力」を引き出す指導法

個々の成長度に合わせ、最適なトレーニングを設計する

 次に、星川氏は「アダプティブラーニング」「外傷・障害の予防」「アントラージュコミュニケーション」それぞれについて、詳細を説明した。

 最初に説明したのはアダプティブラーニングの概要とその実践例だ。前提として、指導者が意識すべき個々人の違いについて、「身長体重」「筋力」「有酸素能力(※5)」の3つを例に挙げた。身長体重については、性別、年齢、人種によって差が生まれるのだと話す。

「いろいろな論文を見る限り、男子と女子とでは女子の方が発育が約2年ほど早いと言われています。女子の身長が最も伸びる平均の年齢が11歳なのに対し、男子は13歳頃です。身長の伸びが落ち着く約2年後に、今度は体重が増加します。女子は13歳で男子は15歳頃です。ただし、身長体重の伸び方には個人差があることにも留意してください。

 また、人種によっても違いがあるので、日本人の特性を理解する必要があります。日本人は早熟傾向であると言われており、他国と比較すると成長が2年ほど早いことが分かっています(最近ではその差は埋まってきているという報告もあります)」

 次に、筋力についても、男女でその成長の仕方に差があるのだと説明した。

「新体力テストのデータを見ると、男子に関しては、大体12歳から16歳にかけて急激に記録が向上していることが分かります」

「一方女子の筋力は13歳ぐらいまででほぼピークに達し、その背景にはホルモン分泌の違いが関係していると言われています。男性ホルモンは筋肉がつきやすく、女性ホルモンは脂肪がつきやすいのです」

 次に、有酸素能力の成長傾向についても触れた。

「20mシャトルランのデータを見ると分かりますが、身長が一番伸びている時期に男性も女性も有酸素能力が伸びていることが分かります」

 さらにここで、成長の段階を見やすくするため、村田光範先生(東京女子医科大学名誉教授。研究分野は胎児医学、小児成育学、栄養学、健康科学など多岐にわたり「基礎から学ぶ 成長曲線と肥満度曲線を用いた栄養食事指導」(第一出版)、「子どもの健康とスポーツ」(医歯薬出版)など多数の著作がある)が提唱した「標準化成長速度曲線」という、スポーツ選手の年齢と標準的な身長の伸びとの関係性について説明した。

「標準化成長速度曲線には3つの大事な点があります。まず1つ目は、Take off Age(テイクオフエイジ)という点で、これは身長が急激に伸び始める点のことです。見て分かるように、直前に身長の伸びが少し緩やかになります。2つ目は、1年間で最も身長が伸びるタイミングであるPHVA(Peak Height Velocity Age:PHAやAPHVなど文献により呼称は異なる)。そして3つ目は、身長の伸びが1cm未満になる点であるFHA(Final Height Velocity Age)です。

 それぞれの点を転換点にし、生まれてからTake off Ageまでをフェーズ1、Take off AgeからPHVAまでをフェーズ2、PHVAからFHAまでをフェーズ3、そしてFHA以降をフェーズ4と子どもの成長期を4つの期間に分けることができます」

 標準化成長速度曲線を基に、それぞれのフェーズに適したトレーニングについて言及した。

「まずフェーズ1においては、基礎体力を養成するのに適した期間だと言われています。いろいろな動作ができるようになりやすい期間なのです。

 フェーズ2は持久力が伸びやすいことが分かっています。フェーズ3では筋力増強のトレーニング効果が得やすいことが分かっています。そしてフェーズ4では身体の成長が一旦落ち着くので、成人と同様のトレーニング、つまり制限なくトレーニングをしても問題なくなります。それぞれのフェーズによって高まりやすい能力は違いますので、成長速度に合わせてトレーニングプログラムを組む必要があるのだと思います」

 成長度合いは人によって変わるため、スポーツ選手それぞれの成長速度曲線を描くことが必要となる。そのためには何をすればいいのだろうか。

「まずは身長測定が大事だと思います。現在の小・中・高校生は3学期制で、それぞれの頭に身体測定を行う学校が多いです。約4カ月おきに身長と体重を測る機会があるわけです。計測したデータを下記の表に入れていくと簡易的に成長速度曲線を求めることができます」

「例えば、中学1年生の4月で身長160cmだった人が9月に165cmになっていた場合、該当する年齢の5cmのところに点を打つわけです。それを繰り返すことで、Take off Ageなど重要な点が見えるようになります。

 ただ、これだけだと難しいところもあるのでほかにも代表的な検査方法を紹介します。それぞれ、Tanner-Whitehouse法(TW法)、BTT法、Maturity Offset法の3つです。

 TW法とは、左手のレントゲン写真を撮ってその骨端核(※6)の成熟度をスコアリングし、その数値から身長を予測する方法です。BTT法とは、過去の身長を基に将来の身長の伸びを予測する方法です。簡易的に測定できるソフトがあり、私もよくそれを使用してPHVAや将来の予測身長を算出しています。Maturity Offset法とは、身長や座高などのいわゆる身体データと年齢から成長度を測定できる方法です」

 成長度を測定しつつ、それぞれの選手に合ったトレーニングを提供する必要がある。

「身体力テストの結果などから身長が伸びる前に敏しょう性が最も向上することが分かっています。つまり、新しい動作の習得がしやすい時期ですので、PHVAの前にはこれまで経験したことのないような未体験の動作を多く行うトレーニングをしてもらいます。例えば、何かひとつの種目を3セットずつやるのではなく、1セットずつでいろいろな動きをしてもらうのです。

 次に、身長が伸びるPHVAのタイミングでは持久力が伸びやすく複雑な動きはうまくいかなくなる時期でもあります。なので、単調で一定の負荷がかかるトレーニングを多めにこなしてもらうようにしています。

 そして、PHVAを過ぎたあたりからはトレーニングメニューに制限は定めず、必要なものを行うようにしています。例えばジャンプトレーニングであれば、関節にかかる負担は少なくした状態で徐々に負荷を上げていき、FHAを過ぎた辺りからはより大きな負荷もかけるようにしています」

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