エースの故障を見抜く指導者と真の“親心”「たとえクラシコでもプレーさせない」
バルサ下部組織の指導者が却下したボージャンの出場直訴
欧州には、こんな諺があるそうだ。
「酔っ払いと子供の顔は嘘をつかない」
かつてバルセロナのカンテラで監督を務めてきたジョアン・サルバンスは、当時チームのエースだったボージャン・クルキッチ(現・アラベス)の沈んだ表情を見逃さなかった。彼は故障を抱えていたが、隠してプレーをしようとしていた。ジョアンは、ボージャンの出場直訴を却下し、口論になったという。
「間近に迫っていたのは、同じバルセロナのライバル、エスパニョールとのダービーマッチでした。この試合はユース年代の子供たちにとっては、レアル・マドリードとのクラシコに相当します」
だがジョアンは、ボージャンを説き伏せた。
「君への要求は非常に高い。他の子はプロになることが目標だが、君の場合はカンプ・ノウの満員の観衆を沸かせることだ。チャンスは来年も再来年も必ずやって来る。今はケガをしっかりと治すんだ」
日本の高校生が、スペインのクラブの練習に参加すると、一様にトレーニング時間の短さに驚く。ジョアンは力説していた。
「私は同じことを100回繰り返すより、集中して10回取り組むことを大切にします。それに練習量と強いメンタルは、決して比例しません」
今でも彼我の落差が最も大きいのが、育成の常識なのだと思う。
【了】
加部究●文 text by Kiwamu Kabe