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エースの故障を見抜く指導者と真の“親心”「たとえクラシコでもプレーさせない」

バルサ下部組織の指導者が却下したボージャンの出場直訴

 欧州には、こんな諺があるそうだ。

「酔っ払いと子供の顔は嘘をつかない」

 かつてバルセロナのカンテラで監督を務めてきたジョアン・サルバンスは、当時チームのエースだったボージャン・クルキッチ(現・アラベス)の沈んだ表情を見逃さなかった。彼は故障を抱えていたが、隠してプレーをしようとしていた。ジョアンは、ボージャンの出場直訴を却下し、口論になったという。

「間近に迫っていたのは、同じバルセロナのライバル、エスパニョールとのダービーマッチでした。この試合はユース年代の子供たちにとっては、レアル・マドリードとのクラシコに相当します」

 だがジョアンは、ボージャンを説き伏せた。

「君への要求は非常に高い。他の子はプロになることが目標だが、君の場合はカンプ・ノウの満員の観衆を沸かせることだ。チャンスは来年も再来年も必ずやって来る。今はケガをしっかりと治すんだ」

 日本の高校生が、スペインのクラブの練習に参加すると、一様にトレーニング時間の短さに驚く。ジョアンは力説していた。

「私は同じことを100回繰り返すより、集中して10回取り組むことを大切にします。それに練習量と強いメンタルは、決して比例しません」

 今でも彼我の落差が最も大きいのが、育成の常識なのだと思う。

【了】

加部究●文 text by Kiwamu Kabe

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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