女子選手の指導に悩む男性コーチ問題 名将・佐々木則夫は「カッコつけない」を貫いた
女性特有の生理の問題もスタンスは一貫「分からないなら学ぶべき」
選手選考は敢えて、男子と同様のスタイルを貫いた。例えば、合宿に30人を呼び、段階的に数人ずつふるいにかけるサバイバル形式を導入。周囲の関係者からは「女子選手にはやめた方がいい」と反対されることも多かったという。
しかし、女子チームの組織マネジメントについては、代表監督として譲らないラインがあった。
「まず、仲の良いグループがあるとかは意識しない。選手同士の人間関係については、マネージャー、コーチが察知して情報をくれるけど、何かあっても対処はなるべく任せていた。なんでもかんでも出て行かず、肝心な時に監督は出て行けばいい。私自身があまり細かいことを気にしないタイプではあったけど、そもそも『ここは日本代表なんだぞ』という自覚を持たせたかった。
だから、ふるいにかけるような合宿もやっていた。『あの子が落とされちゃった』『あの子はまだ残っている』という感情が裏ではあるかもしれないけど、代表チームは勝つために存在している。北京五輪でレギュラーだった選手が落ちてバックアップメンバーに入った時はみんな泣いていたけど、一般的に女性の弱さと思われていた部分は逆に強化するという意識を持っていた」
その上で、戦術の強化、相手の分析など、監督としてこだわる部分は徹底的にこだわった。こうした積み重ねがあって、なでしこジャパンに団結を生み、女子W杯で「奇跡のような試合の連続だった」という戦いで、世界一になった。その指導哲学を明かした佐々木氏。同じように、体験を共有した機会が6月14日にあった。
「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」。インターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。この回は部活指導者を対象に女子選手の指導など、多岐に渡るテーマで講義を行った。今回のインタビューを実施したのは、その授業後のこと。
最後に触れておきたいのが、女性特有の心と体の問題だ。生理と競技のパフォーマンスの関連については、部活動などの現場で男性指導者が頭を悩ませるものの一つだ。
ただ、佐々木氏のスタンスは一貫している。デリケートな話題だからと目を逸らすのではなく、他のスキル、メンタルの課題と同じように「指導者として、分からないことがあれば学ばないといけない」というもの。
「どう振る舞うか、ジャッジするか、声かけをするか。分からないから学ばないのは、指導者として我々のあるべき姿じゃない。私自身も監督になる時によく学んだ。特に、生理は怪我に結びつく問題もある。代表ではドクター、トレーナー、マネージャーというネットワークの中で対処していくことが大切だった。
ただ、1、2人で指導しなければならない部活動は大変だと思う。なかでも、注意を向けてほしいのは、男子も共通する部分だけど、メンタル面が落ちている時にキツイ指導が入ると、自分は普段と同じようにやっているつもりでも効き方が違う。特に、思春期の学生を相手にする場合は気をつけないといけない」
そして、佐々木氏が言った「大切になるのは信頼感だと思う」という言葉に、指導者として大切な要素が詰まっていた。
どんなレベル、年代であっても、指導者として一番に求めるべきは、選手と信頼を結ぶこと。その上で、女子選手を指導する上で、気を付けるべきことがいくつかある。なでしこジャパンを率いて世界一に導いた佐々木氏の体験談は、多くの男性指導者にとって、一冊の教科書になる。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)