今の子どもの指導に悩む大人へ ストリートスポーツ界のカリスマは「一切教えません」
子どもには考えさせるアプローチを―「すぐに答えは教えない」
この意見には内野も100%賛同する。子どもの好奇心を膨らませるためにも、大人は子どもに寄り添い、ともに歩むスタイルがいいのではないかという。
「親に限らず大人が子どもに教える時は『俺は答えを分かっている』っていうアプローチではなくて、一緒に謎を解いていく感じがいいんじゃないかと思います。BMXだったら映像を見ながら『この技はこうなってるんじゃない?』『どう思う?』『もしかしたらいけるかもね』と、友達のようなスタンスでいくとか。僕は息子が『できないんだけど』って来た時は『できないのが普通なんだよ』って伝えます。それでも、すぐに答えは教えない。映像を見ながら、どうしようかって一緒に考えます」
できないこと、失敗することは決して恥ずかしいことではない。ストリートスポーツでは「ナンバーワン」である以上に「オンリーワン」であることが高く評価される。内野は言う。
「僕らの業界ってスピード勝負ではないので、クリエイティブさが最も重要。特に、僕の競技(フラットランド)はそうですね。僕から言われた技だけやっていたら、クリエイティブさは培われないし、僕を超えた時に新しい技が生み出せなくなってしまう。スケートもそうですけど、誰もやっていない技を生み出せる人間と生み出せない人間、真似しかできないのか、新しいものを作れるか、これは大きな違いです。急にはできないので、小さい頃からクリエイティブさを養うためにも、自分で考えることは大切ですよね」
BMXでもスケートボードでも、大会で新しいオリジナルの技を決めた選手がいれば、観客はもちろん対戦相手も含め、その場にいる全員が自分のことのように成功を大喜びする。こういった光景は他競技で見ることは珍しい。なぜストリートスポーツでは他人の成功をみんなで喜びあうのか。内野は全競技者の気持ちをこう代弁する。
「新しい技が生まれた瞬間に立ち会えたことが、一競技者としてうれしいんですよ。だから、みんな大喜びする。人間味ありますよね(笑)。素直に喜べることを、僕はすごいことだと思っています。こういう気持ちは子どもの頃に経験してほしいですよね」
失敗は当たり前。大切なのは個性。周囲へのリスペクト。日本では、ややもすると偏見をもたれがちのストリートスポーツだが、その土台となる部分には他のスポーツや大人たちが学ぶべき要素が多く詰まっているのかもしれない。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)