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「サッカーは上手くなきゃダメ」 “ヴェルディ流”貫く育成指導者、日本代表MFとの絆

菅澤大我には、今でもしっかりと「緑の血」が流れている。東京ヴェルディならではの価値観を持ち、時には上手さ以外の要素を見下しがちな傾向まで、しっかりと自覚している。

菅澤大我氏はFC東京と争奪戦になっていた小林祐希を勧誘し、東京Vジュニアユースに引き入れた【写真:Getty Images】
菅澤大我氏はFC東京と争奪戦になっていた小林祐希を勧誘し、東京Vジュニアユースに引き入れた【写真:Getty Images】

【“読売育ち”菅澤大我、気鋭コーチの育成論|第2回】育成のキーワードは「上手い、賢い、タフ」

 菅澤大我には、今でもしっかりと「緑の血」が流れている。東京ヴェルディならではの価値観を持ち、時には上手さ以外の要素を見下しがちな傾向まで、しっかりと自覚している。

「昔は自分がヴェルディから出て行くなんて想像もできなかった。ワンツーやショートスルーパスで相手2人の間を抜く。それがヴェルディの“ナイス”です。成功して“ナイス”と声をかけられるのが嬉しくて、指導者にまでなっちゃった。サッカーは上手くなきゃダメ、そこだけは絶対に譲れない。それでも他にも違った価値観があるというのを認めるまでは、だいぶ時間がかかりましたね」

 菅澤が掲げる育成のキーワードは「上手い、賢い、タフ」である。

「特に小さい頃は、3つの要素に明確な序列があり“上手い”が最優先。やがて大人になれば賞金がかかり。自然に“タフ”は育っていく。だって目の前にボールがあり、勝ちたくなかったらサッカーはできないでしょう。だから、先に“タフ”を植えつけようとするのは、育成の指導者としてはナンセンス。大概の指導者は『ハードワーク、球際、切り替え』を3箇条にしていますが、そんなのは当たり前だと思っています」

 ちなみに菅澤が師と仰ぐ小見幸隆(元東京V監督)によれば、ヴェルディの鳥かご(ウォーミングアップなどで行われる複数人によるパス回しの練習)では一切の休憩がない。鬼役の選手にボールを奪われれば、その瞬間に奪い返しに出るのが独特の掟だ。

 菅澤は中学時代から読売クラブ(東京Vの前身)で育ち、22歳で指導者を始めた。ジュニアを指揮している時に、後発のFC東京が権田修一(ポルティモネンセ)、吉本一謙(清水エスパルス)ら有望な選手たちを根こそぎ獲得していくのを見て、強烈な危機感を覚えた。

「これは真剣に選手を獲りに行かないと、完全に追い越される。ヴェルディの育成が終わってしまうと思いました」

 1991年生まれの高木俊幸(セレッソ大阪)の世代から力を入れ、それから3年間は小林祐希(ワースラント=ベフェレン)、高木善朗(アルビレックス新潟)、杉本竜士(横浜F・マリノス)ら有望株を総ざらいした。小林はFC東京との争奪戦になったが、練習参加をした際に「当時旬だった」森本貴幸(アビスパ福岡)と一緒にボールを蹴らせて勧誘した。

「隣のピッチにトップの選手がいる。そこに子供たちが憧れの眼差しを送る。それはヴェルディにしかない環境。自然な手法でした」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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