猛反対からのスタート 鹿児島実業の新体操は、なぜももクロや笑点で踊るのか
南部九州総体2019(インターハイ)に出場する鹿児島実業高校の男子新体操部は、例年、コミカルな演技で話題を呼んでいる。ももいろクローバーZなど人気アーティストの曲を積極的に使用したかと思えば、笑点のテーマ曲や妖怪ウォッチの曲で笑いを誘い、動作にもお笑いタレントのギャグを採り入れる……。
インターハイ新体操は6日開幕、ユニークなパフォーマンスで話題の鹿児島実業・男子新体操部の魅力に迫る連載第2回
南部九州総体2019(インターハイ)に出場する鹿児島実業高校の男子新体操部は、例年、コミカルな演技で話題を呼んでいる。ももいろクローバーZなど人気アーティストの曲を積極的に使用したかと思えば、笑点のテーマ曲や妖怪ウォッチの曲で笑いを誘い、動作にもお笑いタレントのギャグを採り入れる……。床で飛び跳ね、回転する高度なタンブリングの技を見せるだけでなく、コミカルで観衆を楽しませる演技は、どのように生まれ、進化してきたのか。同部の魅力を全3回に分けて、紹介する。第2回は樋口靖久監督のインタビュー前編。
◇ ◇ ◇
――まず、コミカルな演技をするようになった経緯を教えて下さい。
「元々、昭和58年(1983年)に同好会がスタートして、翌年から正式な部活動として始動しているのですが、男子新体操部としては、全国的に見ても、九州だけで見ても歴史の浅いチームです。以前は、九州予選で3位以内が全国大会出場の条件でしたが、3~4年に一度出場できれば良いなという程度で、全国大会に出たとしても、素人だらけの無名チームで、周りから見向きもされませんでした。
男子の新体操は、競技人口が多くなく、高校から競技を始める生徒が多かったので、全国大会に行って上手な選手たちに混じると、生徒が自信なさげに、恥ずかしそうに演技をしていました。それを見て「これは、いけないな」と思ったのが、最初のきっかけです。チームに特徴を持たせようと思ったのです。私の性格なのでしょうが、面白い、楽しいやつをやってみたいなと思いました」
――部活動の大会で、ショーのようにコミカルな演目をやるのは、画期的だと思います。
「今では、子どもたちも笑ってもらえるのが快感になっているようですが、始めは、生徒がすごく嫌がりました。周りから『笑われる』のが恥ずかしくて、嫌だと反対する声もありました。演技に使う音楽を提案しても、多数決で私が生徒に負けることが多々ありました。年々、少しずつコミカルなパートを増やしていったのですが、増やす度に反対されましたね。『真剣に演技をやっているのに笑われてしまうなんて、生徒がかわいそうだ』という声もありました。
ただ、私の恩師(創部者の村田直志氏)からは『周りから何か言われるとか、意見を言われるということは、ほかではできないものをやっているということ。自信を持ってやればいい』と後押ししてもらったので、続けていきました。それで、2002年だったと思いますが、コミカルな演技を観衆が認めてくれて、すごい歓声が起きて、急に風向きが変わりました。
――反対意見を受けながら、ブレイクスルーを果たして、当初の目的にたどり着いたわけですね。
「子どもたちには『(大会の映像を見る人たちに)早送りされないチームにしよう』と言っていましたし、子どもたちが自信と誇りを持って演技をできるようにすることが私の目的でしたから、良い方向に来たかなと思います。私は国士舘大学で主将を務めて日本一になりましたけど、そんなことは、誰も知りません。少し寂しいなと思います。
運よく、私は高校で新体操を教え、子どもたちを育てていく立場になりましたから、競技人口を増やす、周りに男子新体操を知ってもらう機会を増やすということを考えていますし、その方が、子どもたちも『ああ、男子新体操ね』と言ってもらえるでしょうし、将来、やって良かったと思えるのではないかと思っています」
――新体操を通して、選手にどんなことを学んでほしいと考えていますか
「プロにでもならない限り、新体操をやっていたというキャリアで稼げることはないので、まず、この部活動が社会に出てから役に立ったということがなければいけません。一つのことをきっちりと仕上げるのには、反復も必要ですし、時間もかかります。そういうことを、新体操を通じて学ばせるという教育をしています」