バドミントン素人監督の挑戦 「当たればラッキー」と言われた弱小県が変わった理由
選手が語る日章学園の強さ、指揮官が求めた「魅力ある選手」が惹きつけた
なぜ、日章学園を選び、この場所にやって来たのか。「先輩たちが強くて、全国トップを目指すならこの場所だと思った」(實藤圭亮=3年)、「高校生と練習する機会があって、一緒に練習した日章の先輩が強かったから」(佐々木准聖=2年)と言い、徹底された挨拶、礼儀に憧れ、門を叩いてきた生徒もいる。武末監督が求めた「魅力ある選手」の姿は、県内の後輩を惹きつけた。
宮崎でバドミントンをやって、日章学園へ。そんな流れが生まれたから、小学校時代から知った者同士が多い。「最近はみんなで焼肉に行き、名探偵コナンの映画も見に行きました」(淡野公太=2年)と言い、選手同士の家でお泊りもある。地元同士の結束があるから、試合も自然と強い。「地元出身で裏表ない子ばかり。3-0はないけど、いつも3-2で勝っている」と武末監督。競った場面でこそ、絆の強さが発揮される。
春の全国選抜で準優勝し、団体戦でエースと期待される小川航汰(3年)と樋口稜馬(3年)とは1歳上の兄同士も日章学園でダブルスを組んでいた間柄だ。小川は「先輩・後輩関係なく、話ができることがうちの良さです」、樋口は「部活は一生懸命。それ以外は楽しくという感じでやっています」と口を揃える。全国から集まるスポーツ強豪校の上下関係とは、一線を画すものがある。
それは、部の空気感だけではない。象徴するエピソードの一つは、全国区としては珍しく未経験者を受け入れていること。今も16人のうち、2人は高校からバドミントンを始めた選手だ。武末監督は「うちは来る者拒まず、です」という意図を「生徒が見ているから」と明かす。
「僕が『人として』と指導しているのに、バドミントンが弱いからうちに要らないと言ってしまえば、生徒がそういう見方をする人間になってしまう。上手じゃなかったとしても、チームでできることはある。そういうスタイルでやる以上は育てられる子はすべて育て上げることが大事。何より、試合に出られなくても一生懸命に練習する子ばかり。バドミントンが好きなんでしょうね」
選手自身も言う。「みんな、バドミントンが好きで楽しいから入ってくる。自分たちも教えることで、自分たちだって学べる」(池田大将=3年)、「練習もきついし、最初は大変。でも、一生懸命に強くなろうとして、だんだんと練習に追いつけるようになると、自分も頑張らなきゃと思う」(日高堅斗=2年)。選手同士が学び合う、真っすぐな心があるから強くなり、今があるのだ。
今年もインターハイが8月1日、幕を開ける。地元出身ばかりで全国の強豪に育て上げた13年間。その足跡を武末監督に振り返ってもらうと「生徒が本当に頑張ったなあと思いますね、去年もインターハイ4強なんて行けると思ってなかったから。生徒は凄いですよ」と謙遜する。「では、監督が13年間でこれだけは負けないと誇れることは何ですか」と聞くと、少しだけ本音が聞こえた。
「僕は初心者です。素人だけど、諦めずにバドミントンとずっとかかわってきたことは言える。他の監督さんが別の競技に行って、同じようにできるかどうか、『僕はしています』ということだけは思っている。もちろん、僕だけの力だけでなく、県協会の先生、保護者の協力があってこそ。そうして『宮崎と対戦できればラッキー』と言われていたものが、今は逆になりつつあるから」
3年生にとっては最後の夏。「勝っても負けても、バドミントンをやってきて良かったと思ってほしい。自分に限界を決めず、可能性を諦めない人間に育ってくれた」と願った先に、生徒たちにまだ伝えたことがない想いがある。
「大人になった時、『武末からスマッシュを教わった』という記憶は絶対ない。彼らに残るのは、靴を並べること、挨拶をすること……。そんな風に、教わったことを指導者となり、親となり、ジュニア世代、子供たちに伝えてくれたら、うれしいですよね」
3年で終わるはずだった監督生活で、迎えた13回目の夏。やはり温かい口調で、選手の未来に託した想いは、確かなバトンとなり、つながっていく。「対戦できればラッキー」だった宮崎が強く、魅力ある県として、きっと、いつまでも。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)
◇インターハイのバドミントンは8月1日から8月5日まで熱戦が繰り広げられる。今大会は全国高体連公式インターハイ応援サイト「インハイTV」を展開。インターハイ全30競技の熱戦を無料で配信中。また、映像は試合終了後でもさかのぼって視聴でき、熱戦を振り返ることができる。