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ラグビー界に勝者なき全国大会のなぜ 15人揃わぬ部活の現実…花園王者から合同チームまで、勝敗を超えた3日間

初日夜のファンクションで震災「語り部」の話を聞く選手たち【写真:吉田宏】
初日夜のファンクションで震災「語り部」の話を聞く選手たち【写真:吉田宏】

15人揃わぬ部活の現実「本当は単独で大会に」

「私が釜石生まれなので、こういう大会は本当に嬉しいですね。全国の人たちに釜石という土地を知ってもらえるいい機会ですし、野上先生や他の先生方には本当に感謝しています」

 しみじみと語ったのは、岩手・黒沢尻工の阿部昇監督だ。全国の強豪を迎えた側、元釜石SWの選手でもある指揮官は、今回は釜石高、釜石商工との合同チームを率いるが、東北の部活事情の厳しさを痛感している。

「本当は単独で釜石での大会に出たかったですけれど、なかなか15人揃えるのは難しいですね。他の高校も同じです。今、15人メンバーがいるのは盛岡工と黒沢尻北くらいです。今回の合同チームも、本当は2月の新人戦(東北新人大会)も合同でやりませんかという話もありましたが、選手同士もいきなりだと難しいし、様々な事情で出られなかった。今回も、この交流大会前の練習は3回だけです」

 部員不足の複数校が1つのチームとして大会に参加する合同チームは、2023年度から全国大会でも出場が認められるようになったが、実際の活動は容易ではない。今回のチームも、黒沢尻工のある北上市と釜石市の移動時間は車で1時間以上かかる。この3校が一緒に練習するためには、片方のチームが往復2時間半近い時間を割く必要があるのだ。合同チームが採用されたからめでたしめでたし――そういう発想は実際の現場の難しさを見ていない人たちの妄想に過ぎない。それでも指導者たちは、子供たちに試合をさせたいという思いだけで合同での活動にも取り組んできた。

「この交流会も、自己負担があったりしますが、合同チームでも参加する価値は大きいです。昨年度の花園でも、東北のチームは正月を越えてない。また以前のように東北のチームが正月に出られればいいですが、この地域内でレベルの高い試合が組めるかというと、そうは出来ないんです。練習試合の数も、関東なんかと比べても少ないと思います。なので、こういう少ないチャンスに、強豪相手に自分たちの欠点を見つけられればいいですね。この春先の時期から、また鍛え直せるチャンスがあるんです。だから、東福岡なんて選抜で優勝して直ぐにこちらに来てくれているのは本当にありがたいことです。試合以外でも初日の夜のウェルカムパーティーなんかでも、関西の子たちは話したりアピールするのが上手いんですよ。東北人はそこが下手でね。そんな交流も子供たちにはいい経験なんです。最終的には、全国に行った時に、ああ釜石でやったよねと言い合えるところまで勝ち上がれればいいですけれどね」

 阿部監督の指摘通り、初日の夜に市民ホールに全選手が集まって行われるファンクションでの各チームが舞台に上がっての挨拶では、東北勢が緊張もあって生真面目な自己紹介や意気込みを語るにとどまった一方、関西勢をはじめとした数チームは一発芸やコント、大喜利で会場を笑わせた。かなりスベったネタもあったが、他校の選手が声援で場を盛り上げるシーンもあり、グラウンド以外の場でも選手たちの距離が縮まっていた。翌日に行われた参加校の中から選ばれた選手たちによるドリームマッチでは、選外の選手たちが復興スタジアムのスタンドに陣取り、同じチームの仲間やこの交流会で対戦した選手らを応援する声で熱気に包まれていた。

 阿部監督の下で合同チームに参加した釜石高・LO柳内琉主将は、交流会でのゲームでこんな学びを感じている。

「去年は他校との合同チームで参加したんですが、試合に出られたのは今年が初めてでした。すごく良かったです。自分たちは合同チームなので、ほとんど練習が出来なかった。第1日に名古屋高と試合をしたんですが、FWだとラインアウト、スクラムの質が全然違っていました。それから、一つ一つ声を出しながらプレーしているのが違いだと感じました。とてもいい経験になりました」

 釜石高は3年生は柳内主将1人、2年生が5人という部員数だ。交流会で得たものをチームに持ち帰るのと同時に、秋の花園予選へ向けては新入生を集めて単独チームでの出場も目指すという。柳内主将にとっては地元での晴れ舞台になったが、大人たちもこの交流会を成功させようと奔走した。現地のラグビー関係者は、まさに手弁当で舞台裏を支え続けた。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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