丸刈り強要やお茶当番を廃止 深刻な野球離れ阻止へ、2人の中学教師が地域と取り組む育成改革
競技人口の復活には地元の熱意が不可欠
埼玉県中体連軟式野球専門部の事業部長で、プロジェクトの旗振り役でもある川口市立芝東中学軟式野球部監督の武田尚大さんには、忘れられない言葉がある。
「丸刈りにしたくない」
以前勤務していた中学の体育の授業でソフトボールを教えていると、野球部員を馬鹿にするほどめっぽう上手なバレーボール部の生徒がいた。野球部を選ばなかった理由を尋ねたら、この答えが返ってきたのだ。
「あの子が中学、高校で野球に打ち込んでいたら、プロになれたかもしれない。根拠のない大人の固定観念で、子供たちの可能性の芽を摘み取っているのではないか、と考えるようになったんです。そもそも丸刈りにするかどうかの選択権は、子供たちにありますからね」
19年1月に『埼玉baseballフェスタin川口』というイベントを初開催すると、約1000人が参加した。プロ野球・埼玉西武ライオンズOBによる体験教室をはじめ、サークルベースボールやスピードガン計測、ホームランチャレンジなど幼児から小学6年生を対象に参加費無料で行った。昨年5月は約700人、5回目の今年1月には寒中でも500人以上が集まった。
イベントを手伝った川口芝東中の赤城翔主将が「みんな笑顔でやっていて教えていても楽しかった」と言えば、作山奏太捕手は「野球の楽しさを知ってもらえたと思う」と喜んだ。
プロジェクトの成果について武田さんは、「少しずつですが、中学の野球部員は増えてきました」と話し、「イベントを開催すれば子供たちは野球がすごく楽しいと言ってくれるし、野球をやらせたい保護者も割と多いんですよ」と目を細める。
2005年創設の川口クラブではゼネラルマネジャーとコーチを兼務。元々選抜チームだったが、20年からは部活動に所属する市内の全中学生を対象にした。4支部にトップ、ミドル、育成の3チームがあり「実力に応じて誰でも平等に指導を受けられる環境を作りたかった。うちをモデルにしようとするチームからの問い合わせも多数あります」と普及活動に貢献する自負ものぞかせた。
プロジェクトは各方面から注目され、プロ野球・横浜DeNAベイスターズをはじめ神奈川や山梨の関係者と連携した企画も計画中だ。しかし武田さんは「私たちが事業を拡大するだけでは駄目なんです。地域の人々が地元の野球を守るためにエネルギーを注いで立ち上がらないと、それ以上の発展は望めません」と力説し、競技人口を復活させるには地元の熱意が不可欠だとした。