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コロナ禍で痛感した“拍手”の温かみ 太鼓とファゴットに魅せられた吹奏楽少女の成長【#青春のアザーカット】

学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。

日常生活に音楽がある環境で育ったという宮本さん【撮影:南しずか】
日常生活に音楽がある環境で育ったという宮本さん【撮影:南しずか】

連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。

 便利だけどなぜか実感の沸かないオンライン。マスクを外したら誰だか分からない新しい友人たち。楽しいけれど、どこかモヤモヤする気持ちを忘れられるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

「今」に一生懸命取り組む学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。何よりも大切なものは、地道に練習や準備を重ねた、いつもと変わらない毎日。何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

22頁目 金光学園高等学校 音楽部吹奏楽団 新3年生・宮本望愛(もあ)さん

暑い日も寒い日も旧校舎での個人練習で腕を磨いてきた【撮影:南しずか】
暑い日も寒い日も旧校舎での個人練習で腕を磨いてきた【撮影:南しずか】

 構内の片隅に立つ木造の旧校舎。何十年と生徒の成長を見守ってきたレトロな建物は今、静かに隠居生活を送っているかのようだ。廊下に残された文化祭や体育祭の飾り、壁に張り残されたプリント、部分的に光沢を帯びた階段の手摺り。かつてこの空間が賑やかな生徒の声で満たされていたことが、そこかしこから伺える。

 穏やかな時間を過ごす旧校舎が、ひそかに心待ちする時間がある。吹奏楽団の部員たちがそれぞれ個人練習をしようとやってくる時だ。長い廊下や階段の踊り場、広い教室の中に散らばり、フルート、クラリネット、サクソフォーンなど様々な楽器で音を奏でる。曲を通して練習したり、苦手なパートを何度も繰り返したり、響く音色はそれぞれだが決して不協和音には聞こえないのが面白い。2階建ての空間に音が満ちあふれる時間は、旧校舎にかつての温もりをよみがえらせる。

 旧校舎に入ってすぐ、1階の階段脇でファゴットを練習する宮本さんは「ファゴットの音が好き。優しい感じの低音が出せるので」とニッコリ微笑む。聴く人をスッポリと包み込むような懐の深い音色。「ひたすらいい音を出そうと思って演奏しているので、音が響く場所で練習したり、逆にまったく響かない場所で自分の演奏を聞いてみたり、音を聞き比べながらやっています」。お気に入りの階段脇は「あまり響かなくてリアルな音が聞こえます」と言い、自分の調子や楽器そのものの響きを確かめるにはうってつけの場所だ。

突然の配置転換で驚き「左の親指だけで10個もキー操作がある」

配置転換当初はダブルリードとキーの多さに苦労したという【撮影:南しずか】
配置転換当初はダブルリードとキーの多さに苦労したという【撮影:南しずか】

 幼い頃からピアノやドラム、マリンバなど楽器に囲まれて育った。実家のある広島県尾道市は毎年11月1日から3日間行われる奇祭・ベッチャー祭が有名で、祭りには欠かせないベッチャー太鼓を叩いていた。広島から世界に羽ばたいた和太鼓奏者・林英哲さんから手ほどきを受けたこともあり、「太鼓が大好きでした」と振り返る。

 音楽と同じくらいスポーツも好きで、中学進学後はバドミントン部に入りたかったという。だが、残念ながら金光学園中学校にはバドミントン部はなく、吹奏楽団だった姉の影響もあって音楽の道を選んだ。同じ学校に通う兄は野球部で「高校野球のアルプス応援にも憧れました」。和太鼓好きということもあり、吹奏楽団で選んだのはパーカッション。「曲によって割り振られるパートが違うので、ドラムであったり鍵盤楽器であったり、色々な楽器ができるのが楽しくて」と部活にのめりこんだ。

 転機が訪れたのは中学2年の秋。ある日、顧問を務める園田泰之先生から突然、「ファゴットをやってみないか」と声を掛けられた。2か月後に迫る岡山県アンサンブルコンテストに向けて、低音の管楽器が足りないという。「助っ人みたいな感じで始めました」と笑うが、ファゴットとパーカッションはまったくの別もの。ファゴットは2枚のリードを震わせ、10本の指で20個以上にも及ぶキーを操作するのだから、簡単に音が出るはずもない。「左の親指だけで10個もキー操作があるんですよ(笑)」と言いつつも、音に魅せられ、担当し続けている。

 ファゴットに転向した翌年には岡山県アンサンブルコンテストで好成績を収めて中国大会に進み、銀賞に輝いた。折しも世界中を襲ったコロナ禍の真っ只中。「休校にもなったし、部活は全然できませんでした。ブレストレーニングをして肺活量を鍛えたり、自分でできる練習をして基礎を固めたりしていました」。オンラインでの練習やミーティングを重ねた末の銀賞受賞だっただけに、喜びはひとしおだった。

コロナ禍で改めて気付いた“聴いてもらう”喜び

演奏会では観客から届く拍手に感動を覚えるという【撮影:南しずか】
演奏会では観客から届く拍手に感動を覚えるという【撮影:南しずか】

 コロナ禍で部活動が休止となった当初は「(再開の)見通しが立たず、全てがストップしてしまった感覚があって、いつまで続くんだろうというのはありました」と長いトンネルに迷い込んだ気持ちになった。練習がないばかりか、コンクールや演奏会はその多くが開催されなかった。

「本番がなくてお客さんから拍手をもらえなかった分、不安になるというか……。まず、自分たちの演奏を誰かに聴いてもらいたいな、というのはありました。演奏している側としては、最後にもらう拍手が一番『頑張って良かった』と思えるもの。拍手をもらえた時は、演奏しているこちらが感動する、そんな感覚です」

 宮本さんは吹奏楽団として活動することの魅力について「全員で演奏することによって、自分の音をどれだけ周りの音になじませられるか、周りの音を聞きながら合わせたり、引っ張っていったり。息を合わせないと音も合わないのでチームプレーですね」と語る。個々の音が集まって一つの楽曲を生み出す喜びは、その楽曲を聴く人々の喜びと交わった時、音楽が持つ魅力をさらに大きなものに変えるのかもしれない。

音楽が引き合わせてくれた仲間との絆「登下校もみんな一緒」

音楽、仲間、後輩、そして支えてくれた人々への愛に溢れる【撮影:南しずか】
音楽、仲間、後輩、そして支えてくれた人々への愛に溢れる【撮影:南しずか】

 かつては40人を超えた部員数はコロナ禍を機に減少し、現在は28人。副部長として部の雰囲気作りに努めているという宮本さんは「部員が減ったことをマイナスに捉えるのではなくて、減ったからこそできる曲もあると思うんです」とポジティブ思考。現在は5月4日に予定される定期演奏会に向けて、日々練習を積み重ねている。3年生は定期演奏会をもって部活から引退するのが恒例。「早いですね。もうすぐ引退です」とは言うが、その表情を見る限り、まだ実感は沸いていないようだ。

 吹奏楽団の同級生は宮本さんを含め9人いる。そのうち8人は中学から一緒に活動。9人となってからも同級生の絆は強く、「私たちの学年はすごく仲が良くて、登下校もみんな一緒。ここまで仲のいい学年はなかったんじゃないかと思います。一人ひとり個性もあるけれど、お互いを尊重できるいい関係です」。そういって浮かべる笑顔は、どこか誇らしげに見える。

 幼い頃からずっと側にあり続けた音楽のおかげで、かけがえのない仲間たちとも出会えた。「簡単には言えないんですけど、音楽は自分の日常生活を潤わせてくれるもの。音楽を聴くのも演奏するのも楽しいし、ストレス発散にもなる。音楽の力で誰かに感動や勇気を与えることもできる。私にとって、結構大事なものですね、音楽は」。もちろん、吹奏楽団を引退しても音楽は続けていくつもりだ。

 引退まで2か月を切った。残された時間でやっておきたいことについて質問されると、吹奏楽団を思う副部長としての姿が前面に立った。

「現実的なことを言うと、後輩への引き継ぎですね。私たちが先輩から引き継いできたように、部長・副部長という幹部の仕事、自分が受け持っている係、各部署の仕事を、後輩全員が把握できるように引き継がないといけないので。28人のうち9人が抜けたら、結構大きな変化。一人ひとりがちゃんと責任を持って自分の席に座れるようにしたいと思うので、自分がやっておきたいというより、後輩に伝えておきたいことが多いですね」

 中学1年生の時、ドキドキしながら体験入部した日から数えて6年目。後輩思いの高校3年生へと成長する過程は、毎日響かせ続けた音の記憶とともに旧校舎に刻まれている。

【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。

■南しずか / Shizuka Minami

1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com

南カメラマンがファインダーから覗いた宮本さんの音楽愛

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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