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創部初の快挙も描き変えた未来予想図 拓殖大ゴルフ部で知った可能性と現実【#青春のアザーカット】

学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

八王子国際キャンパス内にあるゴルフ練習場。定位置の“緑のマットの打席”では数え切れないほどスイングを重ねた【写真:南しずか】
八王子国際キャンパス内にあるゴルフ練習場。定位置の“緑のマットの打席”では数え切れないほどスイングを重ねた【写真:南しずか】

連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

 そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

7頁目 拓殖大学ゴルフ部4年(前主将)寺北尚生くん

プロを目指し、レベルの高い関東学生ゴルフ連盟を主戦場とした寺北くん【写真:南しずか】
プロを目指し、レベルの高い関東学生ゴルフ連盟を主戦場とした寺北くん【写真:南しずか】

 自分の成長と可能性を感じると同時に、未来予想図を描き変えた大学生活だった。3月に卒業を控えた寺北くんは「拓殖大学に入学して、ゴルフ部に入部して、今はまったく後悔はしていません。いい選択をしたと思っています」と晴れやかな表情を浮かべる。

 初めてゴルフクラブを触ったのは小学5年生の時。無類のゴルフ好きだった父から影響を受けた。“打ちっぱなし”から練習を始めたが、程なくしてコースデビュー。「正直楽しくはなくて、めちゃくちゃ難しいなっていう印象が強かったです」。それでも試合で味わう背筋の伸びるような緊張感が心地よく、地元の中学に進むと部活には所属せず、放課後に一人で黙々とゴルフの練習に励んだ。その甲斐もあり、兵庫県大会で上位に入り、関西大会に出場。向上心を掻き立てられた。

 高校はスポーツが盛んでゴルフ部がある報徳学園に進んだ。兵庫県下では滝川第二高と甲南高が圧倒的な強さを誇り、それに報徳学園が続く。「昔は強かったという報徳をもう一度強くしたいと思い、選びました」とチャレンジャーの道を選択。仲間とゴルフに没頭する日々を送りながら、プロになりたい想いを強めた。

 大学進学にあたり関西圏の大学からも声が掛かったが、「プロを目指す上でも、大学ゴルフ界で一番レベルが高いところで自分の実力を試してみたい」と関東学生ゴルフ連盟の所属大学に候補を絞った。中でも「心に響いた」のが拓殖大学だった。「総監督が『寺北尚生がほしい』と個人にフォーカスして誘って下さったことが決め手になりました」と振り返る。

プロを目指して上京、関東学生ゴルフ連盟を主戦場とするも…

コロナ禍の影響で試合数が激減するも、フィジカルトレーニングに取り組み、自分の可能性を伸ばすことに努めた【写真:南しずか】
コロナ禍の影響で試合数が激減するも、フィジカルトレーニングに取り組み、自分の可能性を伸ばすことに努めた【写真:南しずか】

 大志を抱き、意気揚々と乗り込んできた東京。だが、待っていた現実は想像とは少し違った。ゴルフ部に「いる」はずだったコーチはいなかった。高尾山の麓にある八王子国際キャンパス内の練習場には、天狗こそ出ないが、イノシシや野ウサギ、ハクビシンなどが姿を現す。「聞いていた話とちょっと違うなということがあり、そのギャップに悩んで腐りかけたこともあります」。モヤモヤを抱えて臨んだ1年秋のリーグ戦では、会期中にメンバーを外される悔しさも味わった。

 それでもドロップアウトせずにとどまったのは、ゴルフ部の仲間の存在が大きい。「本当に仲が良くて先輩にも冗談が言えるくらい。人には恵まれたと思います」と胸を張る。「今、置かれた状況でどう頑張るか、どれだけ頑張れるかが大事」と、自分自身を鼓舞し直した。

 転機となったのは、1年秋のリーグ戦後に負った怪我だった。肉離れでクラブが握れない状況を逆手に取り、それまで本格的に採り入れたことのなかったフィジカルトレーニングを実施。怪我から回復すると、ボールの飛距離と制球力がアップしていた。2年生秋のリーグ戦では好成績を残し、「もしかしたら自分はやれるんじゃないか」と手応えを感じた。

コロナ禍でも「落ち込んでいる暇はなかった」と可能性を追究

4年生では主将に就任「誰かに影響を与えられるような人になりたい」と行動で牽引した【写真:南しずか】
4年生では主将に就任「誰かに影響を与えられるような人になりたい」と行動で牽引した【写真:南しずか】

 自分自身に感じた可能性を頼りに、実戦を重ねながらゴルフのレベルを一段引き上げようと意気込んだ矢先、新型コロナウイルス感染症が世界を一変させた。ゴルフ部の活動はもちろん、大学の授業すら一時休止。まさかの展開に驚きはしたが、不思議と落胆はしなかった。

「自分の可能性を潰さないためにも落ち込んでいる暇はなかったです。ゴルフができないなら、さらに真剣にトレーニングに取り組んで、この期間があったから自分はレベルアップできたと言えるようにしよう、と思いました」

 コロナ期間中はトレーニングの内容を精査。よりゴルフに直結するフィジカルトレーニングは何か、自分なりに考えた。

「ゴルフに必要な身体能力を考えた時、大切なのは瞬発力、柔軟性、持久力。そこで同じ身体能力を必要とする他競技の選手、たとえば陸上部の短距離選手や重量挙げ、水泳部の友達にも、どんなトレーニングをしているのかヒアリングして、採り入れてみました」

 1ラウンド18ホールという長時間にわたる集中力や体力も欠かせない。基礎体力のアップを狙って毎朝4時から10キロを1年間走り続けたり、高尾山を登山したり。夏の炎天下でも戦い抜ける体作りには、消防隊員が行う暑熱順化トレーニングを実施。動画サイトやSNSを通じて、2017年PGA選手権覇者のジャスティン・トーマス、2020年全米オープン覇者のブライソン・デシャンボーら海外選手のトレーニング風景にも触れ、メンタル面での刺激も受けた。

創部以来初の快挙も、大舞台で出場で区切りをつけたプロの夢

 通常は年間15試合ほどに参戦するが、2020年はわずか2試合にとどまった。それでも7月に開催された日刊アマゴルフ関東大会決勝で13位となり、10月の全日本シングルプレーヤーゴルフ選手権大会への出場権を獲得。同大会への出場は1967年の創部以来初という快挙を成し遂げた。

「全日本選手権の出場はうれしさよりも感謝の思いが強かったです。心折れそうになった時に声を掛けてくれた仲間、地元から応援してくれる友達、お世話になった先生方、コーチ、両親……本当にたくさんの方々に支えられたおかげで、全日本選手権の舞台に立つことができた。自分一人ではできなかったと強く思っています」

 目標のスコアには届かなかったが、「本当に楽しかったですし、自分の出せる力は出せたと思える大会でした」と存分に味わった。同時に「自分より上手な選手はたくさんいる。この中でプロを目指すのは難しい」と現実も知った。

「プロになって賞金を稼ぐとなった時、自分は本当にゴルフを好きでいられるのか自信がなくなってしまいました」

 プロを志して東京へ出てきた手前、その夢を諦めるという決断を両親に伝えることは辛かった。特に、医療従事者としてコロナ最前線で戦う母は、単身赴任だった父に代わり、中高時代には練習場や試合会場への送迎をしてくれた最大のサポーターでもある。「申し訳ないと思って切り出しにくかった」が思い切って伝えると、「自分が決めたことだったらいいんじゃない?」と一言。心がスッと軽くなった。

ミスをしても引きずらず、諦めない… ゴルフから学んだ行動指針

プロの夢を諦めたが、ゴルフを通じて培った人間性や考え方は変わらない【写真:南しずか】
プロの夢を諦めたが、ゴルフを通じて培った人間性や考え方は変わらない【写真:南しずか】

 4月からは高尾から“下山”し、大手グループ企業の専門商社で働き始める。競技ゴルフからは離れるが、ゴルフで身につけた「諦めない心」は社会人になっても大いに役立つはずだ。

「ゴルフは18ホールあるので、とてつもないミスをしても取り返すことができます。目の前の1打に100%以上の力を注いだ結果が良くなければ仕方がない。ミスをしても引きずらず、トータルで考えて諦めない。ゴルフを通じて自分自身の行動指針のようなものが出来上がりました」

 4年を過ごした学生寮から目と鼻の先にある練習場。20以上ある打席の中で定位置としたのは、ほぼ真ん中にある“緑のマットの打席”だ。立った感じが一番フラットで、打った球も見やすい。

「4年になってからは、この打席以外でほとんど練習していません。ここに入ったら、ボールは大体どこに行くってうのがあって、そこからどのくらいブレているかで調子が分かるんですよ。大学の4年間は苦しかったこともあったけど、振り返れば自分が成長するために必要な時間だったのかなと。何より人に恵まれた4年間でした」

 人生をゴルフコースに見立てた時、まだまだラウンド序盤戦。引きずらず、でも諦めず、目の前にある1打に全力を注ぎながらホールを進んでいく。

【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。

■南しずか / Shizuka Minami

 1979年、東京都生まれ。東海大学工学部航空宇宙学科、International Center of Photography:フォトジャーナリズム及びドキュメンタリー写真1か年プログラムを卒業。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材を始め、主にプロスポーツイベントを撮影するフリーランスフォトグラファー。ゴルフ・渋野日向子の全英女子オープン制覇、笹生優花の全米女子オープン制覇、大リーグ・イチローの米通算3000安打達成の試合など撮影。米国で最も人気のあるスポーツ雑誌「Sports Illustrated」の撮影の実績もある。最近は「Sports Graphic Number Web」のゴルフコラムを執筆。公式サイト:https://www.minamishizuka.com

南カメラマンがフィルムに焼き付けた寺北くんの姿

「撮影協力:Pictures Studio赤坂」

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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