ダンスを愛し、ダンスに育てられた女子大生4人の「家族より一緒にいた」4年間【#青春のアザーカット】
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
5頁目 岡崎女子大学・岡崎女子短期大学ダンス部4年 平林みなみさん、伊藤詩さん、上原七海さん、甕彩那さん
「今、少しズレたね。もう1回、タタタ・タタタのところから合わせてみよっか」
「はいっ!」
晩秋11月の午後。窓から柔らかな陽の光が差し込む稽古場に、部長を務める平林さんの張りのある澄んだ声が響き渡る。それぞれが自分のポジションに移動し、準備のポーズをとった瞬間、稽古場を満たす空気さえもシャンと背筋を伸ばしたような、真剣さが漂った。
板張りの床に心地よく響く足音。ピタリと揃った息づかい。一人一人の踊りが組み合わさって構成される作品は、幅、奥行き、そして高さを持った生き物が変幻自在に姿形を変えているようにも感じられる。もしかしたらその正体は、それぞれが発するエネルギーの塊なのかもしれない。
練習を見守る顧問・山田悠莉准教授からのフィードバックをヒントに、上級生・下級生の隔てなく意見を出し合い、修正を重ねて、実際に踊る。地道で終わりのない作業の繰り返しだが、最高の作品に仕上げるために避けては通れない道だ。
コロナ禍で大会や発表会が中止「自分たちはどこへ向かえばいいのか」
稽古場には「今こそ『真剣』にこだわり、ラストを全力で駆け抜ける」という手書きのモットーが掲げられている。12月26日に愛知・岡崎市民会館で予定される作品発表会。この舞台が4年生4人にとっては卒業公演、つまりラストとなる。残りわずかの日々を悔いなく過ごすため、モットーに記した。
入学当初は10名を超える同級生がいたが、短大生は2年が終わると卒業。「私たちの学年は多い方だったんですけど、気付いたら4人になっていました」と平林さんは笑う。平林さん、伊藤さん、甕(もたい)さんの3人は地元・光ヶ丘女子高ダンス部の仲間だったが、上原さんは出身校が違えばダンスも初心者。上原さんは「最初はついていくのが大変でした」と苦笑いするが、今では3人に引けを取らない。
昭和47年に創部。4年制大学と短期大学の学生が一緒に活動する。部員は現在43人で、全国大会での受賞を目指すAチームとダンスへの親しみを深めるBチームで構成。Bチームは週1回の活動だが、Aチームは日曜日を除く週6日を練習にあてる。「家族より一緒にいますね。いいところもそうでないところも、よく分かっています」(伊藤)と絆は強い。
いつも一緒の4人だが、2020年はコロナ禍の影響により直接会えないことも多かった。全国的に緊急事態宣言が発令された4月から活動自粛。6月中旬に再開したが、7月下旬から9月初旬まで再び対面での練習は叶わなかった。予定されていた大会や発表会も中止。当時の4年生を中心にオンラインミーティングを重ねながら、それぞれが抱えるやり場のない想いを共有した。
平林「目標にしていたものが全部なくなった上に、大会が中止になった報告すら、みんなと同じ場所で共有できない。自分たちはどこへ向かっていけばいいのか、必死になって上級生や山田先生と話をしました」
だが、置かれた状況を憂うだけでは何も始まらない。オンライン上だけでもダンス部としての活動を続けようと、部員で声を掛け合いながら日々の隙間時間を活用した。
伊藤「腹筋やる人がいたり、読書する人がいたり」
平林「衣装の説明をする衣装部もあったね」
上原「ほぼ毎日オンラインで繋がっていました」
甕「だから6月に会った時も久々な感じはしなかったよね」
伊藤「ずっと会っていたような気がして(笑)」
テーマ設定から振り付け、衣装制作、音楽編集など全て自分たちで手作り
今を一生懸命生きる学生たちの姿に動かされたのだろう。山田准教授はなんとか発表の場を用意したいと関係各所を奔走。9月には恒例行事「お江戸でダンス」の開催、12月には「第39回あきた全国舞踏祭」への初出場にこぎ着けた。平林さんは「先生の強い愛に私たちも応えたいと、希望を持って練習しました」と話す。
平林「会えない時間があったからこそ気付けたこともあったし、チームとして固まれた部分もあったと思います。みんながみんなを大切にする温かいチームになれたかなって」
その成果は最大の目標でもある「第33回全日本高校大学ダンスフェスティバル神戸」で発揮された。昨年は開催されず、2年ぶりの大舞台。半年以上をかけて作り上げた、仏劇作家ウジェーヌ・イヨネスコの戯曲「犀」を題材としたオリジナル作品「鋼色に染まる街―そして彼らは犀になった―」を全身全霊をかけて踊りきり、見事に審査員賞を受賞した。
平林「他大学は男女混合チームだったり、体育系学部でプロダンサーみたいな人も多かったりする中、私たちは初心者のメンバーも多くて受賞できるとは思っていませんでした。だから、名前を呼ばれた瞬間の喜びは大きすぎたし、やりきってよかったと本当に思いましたね」
大会に向けて、題材選びからテーマ設定、ダンスの振り付け、音楽の選定・編集、衣装の染色・縫製など、全て自分たちの手で行う。時にはテーマに関する知識を深めようと図書館に籠もったり、時には慣れないミシン作業に四苦八苦したり。振り付けや音楽はしっくりとはまるものが見つかるまで、本番直前まで何度でも変更。決して妥協を許さないのは、一つ一つの作品は「自分らしさ」がギュッと詰まった化身でもあるからだ。
卒業をもってダンスは一区切り、心に色濃く刻まれた4年の月日
4月から伊藤さんは大学院へ進み、他の3人は幼稚園や保育園の先生になる。4人にとってダンスと真剣に向き合う日々は卒業で一区切り。だが、ダンスとともに歩んだ毎日は、心に色濃く刻まれている。
伊藤「私は小学生の頃はダンスがあまり好きではなかったんですけど、中学生になって思春期で一番モヤモヤしている時に、感情を体全体で表現できる面白さを知りました。ダンスを通して、伊藤詩という人間がその時だけ犀になることもできる。私にとってダンスは人生における課題を出してくれるもので、それに対して向き合っている時間はものすごく色濃かったと思います。生まれ変わってもダンスをして、自分を成長させ続けたいですね」
平林「私はみんなと一緒に活動することが楽しくて。笑顔の作品もあれば、シリアスな顔をする作品もある。でも、必ず隣には仲間がいて、その仲間と一緒に踊りながら一つの作品を作り上げる。ソロでは絶対舞台に立てませんね(笑)。ダンスに出会っていなかったら、仲間にも出会っていなかったし、遊び放題だったかも。人として大切なことを教えてくれたのもダンスだし、それを続けさせてくれた親に感謝です」
甕「舞台や大会のために作品を作り上げている過程が一番大変なんですが、その中でもできなかったことが『あ、今できたね』『良くなってきたね』という瞬間がある。それを毎日の練習の中で少しずつでも感じながら、みんなと共有できるのがいいなと思います。ずっと長くやってきたことなので、私からダンスを取ったら何もなくなっちゃうかも(笑)。私を形作ってくれたもの。技術面だけではなく、人としての内面もダンスが成長させてくれました」
上原「私は子どもの頃、あまり自分を表現することが得意ではありませんでした。でも、絵を描いたりするのが好きで、言葉で伝えるより表現しやすかったんです。ダンスも同じ楽しさを感じます。大学で思い切ってダンス部に入ったことで、いろいろなことが変わりました。みんなで考えて、準備して、振り付けをして。この4年間で得たものがすごく大きくて、高校までとは全然違う、濃い4年間だったと思います」
ラストの舞台で踊る4年生だけの作品「準備が整った瞬間に『いけるな』と思える」
12月26日の作品発表会では13作品を演じる予定だが、一つだけ4年生4人だけで踊る作品がある。「動脈ト静脈」という作品だ。元々は上原さんが昨年、上級生とデュエットとして踊っていた作品を4人用にアレンジ。10月に「ムーブメントアートインみやざき」で上演した。4年生だけで踊る作品は毎年あるというわけではなく、「奇跡的に4人で踊れる機会をいただけました」と平林さんはみんなの想いを代弁する。
平林「4年生だけで最初のポーズを取ると、なんだか感覚が違うんですよ。緊張や不安な思いがあっても、曲が始まる前、準備が整った瞬間に『いけるな』と思える。もしアクシデントが起きても、この4人なら大丈夫。そういう信頼と安心感が他の作品とは違うんです。そして、私たち4年生が踊れるのも、下級生を含めたチーム全員がいるから。最後はチームで一つになって、みんな同じ笑顔で踊りきりたいと思います」
今こそ『真剣』にこだわり、ラストを全力で駆け抜ける――。
集大成となる舞台を踊り終えた先には、また新たな成長が待っているのかもしれない。
【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。
■南しずか / Shizuka Minami
1979年、東京都生まれ。東海大学工学部航空宇宙学科、International Center of Photography:フォトジャーナリズム及びドキュメンタリー写真1か年プログラムを卒業。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材を始め、主にプロスポーツイベントを撮影するフリーランスフォトグラファー。ゴルフ・渋野日向子の全英女子オープン制覇、笹生優花の全米女子オープン制覇、大リーグ・イチローの米通算3000安打達成の試合など撮影。米国で最も人気のあるスポーツ雑誌「Sports Illustrated」の撮影の実績もある。最近は「Sports Graphic Number Web」のゴルフコラムを執筆。公式サイト:https://www.minamishizuka.com
南カメラマンがレンズで捉えた4人のダンス愛
「撮影協力:Pictures Studio赤坂」
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)