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挑戦すら叶わなかった1年前 高校3冠をあきらめない女子ホッケー部の夏「先輩に金メダルを」

右上が河田真緒さん、左下は佐々木里紗さん【写真:黒川真衣,山田智子】
右上が河田真緒さん、左下は佐々木里紗さん【写真:黒川真衣,山田智子】

「先輩に金メダルを掛けたい」

 特に河田には思いを託したい後輩がいる。選抜大会の決勝で2ゴールを挙げて優勝の立役者になったエース・佐々木里紗(3年)だ。

 岐阜各務野には先輩と後輩が“ペア”になって、競技、生活面のサポートしあう伝統がある。河田と佐々木はその“ペア”の相手。一緒に食事に行ったり、遊びに行ったりと、学校外でも仲がいい。

「下の学年がペアの先輩を選ぶんですけど、中学3年の時に各務野の練習に参加させてもらうことがあって、その時に河田先輩が優しく声を掛けてくれた。しゃべっていても楽しいし、入部した時から『河田先輩がいい!』って狙いにいきました」(佐々木)

 同じFWのポジションの2人は、プレーについてもよく話をした。佐々木が得点を取れない不調に陥った時期。「サラ(佐々木のコートネーム)ならできるよ」と河田は前向きな声を掛け続けた。ストライカーは1点取れれば波に乗れる。「あきらめずに、何度も挑戦すること。シュートを打ち続けること」の大切さを河田は佐々木に伝え続けた。

「本当は去年の先輩たちと一緒に勝ちたかったんですけど、今年絶対優勝して、河田先輩にメダルを掛けに行きたいです」。佐々木は真っ直ぐに前を見つめ、力強く宣言する。

「インターハイ優勝 24回、国民体育大会 優勝30回、全国選抜大会 優勝19回

 1963年創部 岐阜各務野高等学校ホッケー部」

 練習拠点としている川崎重工ホッケースタジアムの入口には、“73個の星”が誇らしげに輝いている。

 前身の岐阜女子商業から数え、インターハイ優勝24回は歴代最多。岐阜県高校総体では58連覇を達成している。選手が入れ替わる難しさを抱える学生スポーツにあって、長い間トップを走り続けられるのはなぜなのか。

「この環境と伝統ですね」

 同校のOGでもある長尾美和監督の言葉に熱が帯びる。

 川崎重工ホッケースタジアムは、ホッケー日本代表チームのナショナルトレーニングセンターとしても利用されている。スプリンクラーを備えたブルーの人工芝は、東京オリンピックと同じ仕様だ。これほど充実した施設を使える高校生はほとんどいないだろう。

 しかし、長尾監督が言う「環境」とはハード面だけを意味するのではない。川崎重工ホッケースタジアムにはコートが3面あり、小学生から、中・高・大学生、日本リーグの強豪・ソニーHC BRAVIA Ladiesがかわるがわる使用している。トップ選手のプレーを毎日のように体感できる環境が、自ずと選手の成長を促していくのだ。

 岐阜各務野から東海学院大を経由してソニーHCへ進み、やがて日の丸を担う。岐阜のホッケー少女たちの夢だ。

「小学生の時から、隣で練習をしている各務野高校に憧れがありました。私も各務野に入って、全国大会に行きたいと思っていました」

 そう口を揃えるのは、佐々木、山藏百音、松波芽依、大塚みなみ(3年)の4人。各務原市ホッケースポーツ少年団の同期で、小学6年次に全国スポーツ少年団ホッケー交流大会で優勝をした実績を持つ。さらに同じ稲羽中学校に進んだ山藏、松波、大塚は、中学でも全国大会も制している。

 小中高通して日本一になった選手は、ホッケー王国・岐阜でも先例がない。今年のチームには「3冠」に加え、小中高「完全制覇」も懸かっている。

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山田 智子

愛知県名古屋市生まれ。公益財団法人日本サッカー協会に勤務し、2011 FIFA女子ワールドカップにも帯同。その後、フリーランスのスポーツライターに転身し、東海地方を中心に、サッカー、バスケットボール、フィギュアスケートなどを題材にしたインタビュー記事の執筆を行う。

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