「世界最高峰の柔道家になる」 夢をかなえた井上康生が高校生へ伝えた“魂のエール”
変化を恐れるな―「失敗を乗り越えた後に人間は成長します」
技術的な質問から、続いてメンタル面へと質問が移った。
アスリートなら誰もが経験したことがあるだろう緊張との向き合い方。「ウォーミングアップまではなんともないが、いざ試合になると緊張して頭が真っ白になってしまう。どうしたらいいでしょうか」という質問に対しては、「緊張はすごく競技力、試合に影響するものです」と共感。井上さんが説いたのは、準備の大切さだった。
「色々なシミュレーションをすることが本当に大事。アップはただ漠然と打ち込み、投げ込みで終わりというケースもある。勝ち上がっていくためには、アップだけをとっても変わる気がする。代表選手においても、そこ(アップ)への意識づけはさせている。試合で考えられるシチュエーションは、あらゆることを想定して試合に臨む。失敗することを考えるから緊張する。その前の練習の段階でいかに準備して臨めるかどうかでパフォーマンスが変わってきます。
それを続けていってもらいたい。代表選手でも試合前にはリラックスするような会話をしたり、ルーティーンを作ったり、自分が落ち着いていることを確認して試合に臨んだり、色々なことを試しながらやっている。みんなにとって変化が起きることは怖いことじゃない。より進化していくためには失敗を恐れてはいけない。変化を恐れないことは大事。失敗を生かせない人間は成長がない。やる前から恐れていては躊躇が生まれてしまう。失敗、挫折の後に、乗り越えた後に人間は成長します」
失敗は人を育てる。挫折を乗り越えた先にこそ、光がある。井上さん自身も高校時代に苦い思い出がある。高校1年でインターハイ団体戦優勝。2年時はオール一本で個人戦優勝。「では3年生でどうだったか。県大会で敗れて全国出ていないんです」と振り返った。
「個人戦も、団体戦も負けてしまった。しかも当時はキャプテンだった。その時の経験は俺にとって凄く大きなものになった。当時、負けた理由を考えると、調子に乗っていたんだろうなと思います。もう一つあって、『攻撃柔道』を躊躇していた自分もいた。俺の柔道はやっぱり『攻撃柔道』なんだと再認識して、またこつこつと努力をして、それを乗り越えてさらなる成長を勝ち取ることができた。失敗を恐れない。変化を恐れない事が大事だと自分でも学びました」
それから4年後、大学4年でオリンピック金メダルという高みにたどり着いた。失敗から学び、変化することを受け入れて掴んだものが五輪の金メダルだったという当時の体験を語ると、画面越しの高校生たちも熱心に耳を傾けていた。