「私も北京五輪後に目標を失った」 ソフトボール山田恵里が高校生に届けたエール
「私も北京五輪の後に目標を失った」―インハイ中止となった高校生に伝えた体験
続いて行われた質問コーナー。高校生からは次々に問いをぶつけた。
――夏にあるインターハイの代替大会(各都道府県の高体連が実施する大会)まで50日間。その期間、どういうモチベーションで取り組んだらいいですか?
「まずは目標を持ち続けることが大切。毎日、同じようなことを繰り返していると見失いがちになるけど、どんな状況でも決めた目標を常に持ち続けること。私自身、北京以降は五輪から競技が除外され、目標を見失い、気持ちが入らなかったり、ソフトボールを辞めようかなと思ったりした。でも、この自粛期間でソフトボールをしたいという意欲が湧いたんじゃないかと思います。私も早くグラウンドに立ちたいという気持ちが生まれたので、そのエネルギーを練習にぶつけてほしいです」
――打撃ならあと一歩でセーフ、守備ならあと一歩で捕れたという部分でなかなか届かない。「あと一歩に強い選手」になるにはどうしたらいいですか?
「私が意識しているのは、例えば練習の塁間ダッシュなら、塁間で終わるんじゃなくもう一歩先まで走る。ノックにしても、1球でもいいから誰より多く捕る。周りより多くやる、早く始める。一歩先を考えて練習しています。人と同じことをしていても、人より結果を出せない。無理と思っていても、人間はできると思えばできる時もある。自分で限界を決めないこと。『アウトかも』ではなく『絶対セーフにしてやる』と思えば、コンマ何秒か変わるし、ボールも手が伸びる。一歩先という意識がすごく大事です」
――同じ県に勝てない強豪校がある。いざ戦った時に「ああ、強いな」と感じてしまい、自分たちのベストが出せません。そういう相手と戦う時はどういう意識で向かっていますか?
「私たちも米国は今も昔も強い。北京五輪の決勝で戦った時もほとんど勝ったことがなく、日本が勝つと思っている人は少なかったけど、自分たちは絶対勝てるという気持ちがありました。それは米国より多く練習している自信があったから。その時、どんな強豪でも相手より練習することで勝てるという意識が生まれ、その意識を持ち続けることで結果は変わると実感した。だから、相手を強いと思うのではなく、相手より多く練習してきたと思えるように取り組めば、自信につながり、結果は変わると思います」
――守備でエラーをした時に引きずってしまう。ネガティブな気持ちになった時、切り替える方法はどうしていますか?
「試合の中でミスは帰ってこない。ただ、次にミスを取り返すことは絶対にできる。過去をひきずらないで、今できることは何かを考えて集中する。『みんなに迷惑をかけたな』『どう思ってるかな』と考えがちだけど、みんなカバーしてくれるし、自分でも取り返せる。私の場合はセンターなので、誰もいない後ろを見るようにしていた。グラブを見たり、上を見たり、誰かに話しかたりという自分を落ち着かせるルーティンを持つことも大切。自分の中に閉じ込めるより解放することが切り替えにつながります」
他にも逆方向に打球を飛ばす方法、チェンジアップに対応する方法、どんな意識で打席に立っているかなど、技術論から精神論まで丁寧に一つ一つ回答。画面上の高校生は視線を落として手を動かし、一言一句を逃さないようにメモしている様子だった。