“物議の決勝”を歴史に変えた平野歩夢 米記者が会場で見た「It’s his time.」の瞬間
「THE ANSWER」は北京五輪期間中、選手や関係者の知られざるストーリー、競技の専門家解説や意外と知らない知識を紹介し、五輪を新たな“見方”で楽しむ「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」を連日掲載する。4年に一度行われる冬季スポーツの祭典。新型コロナウイルスが世界的に広がる中、現地取材する「海外記者のミカタ」も紹介。現場の情報や空気を独自の視点で伝えていく。第2回は米紙「ロサンゼルス・タイムズ」の記者・トゥクニー・グエンさんだ。
「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#63 連載「海外記者のミカタ」第2回
「THE ANSWER」は北京五輪期間中、選手や関係者の知られざるストーリー、競技の専門家解説や意外と知らない知識を紹介し、五輪を新たな“見方”で楽しむ「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」を連日掲載する。4年に一度行われる冬季スポーツの祭典。新型コロナウイルスが世界的に広がる中、現地取材する「海外記者のミカタ」も紹介。現場の情報や空気を独自の視点で伝えていく。第2回は米紙「ロサンゼルス・タイムズ」の記者・トゥクニー・グエンさんだ。
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ベトナム系米国人のトゥクニーさんは期待の若手女性記者で、ロサンゼルスではNBA、WNBA、大学スポーツを中心に取材。カナダ国境に程近いシアトル出身ということもあり、ウインタースポーツにも造詣が深く、今回初めて冬季五輪取材班に抜擢された。11日にはスノーボード・ハーフパイプ男子の決勝を現地で取材したトゥクニーさんに「2人の王者・ショーンとアユム」について聞いた。(取材・構成=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
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大会8日目の11日、私はスノーボード界の歴史が動く瞬間に立ち会うことができました。ハーフパイプ男子の決勝。これまで五輪3大会で金メダリストになったショーン・ホワイト(米国)が現役を退き、アユム・ヒラノ(日本、以下平野)という新チャンピオンが誕生。平野が優勝を決めた直後、ショーンが駆け寄って抱きしめた様子は、まるで「この先は任せたぞ」とバトンを受け継いでいるようにも見えました。
決勝で見た平野のパフォーマンスには、正直「Wow!(ワオッ!)」の言葉しか出ませんでした。誰が見ても「この人は違う」と思うような圧倒的な滑り。これまでトリプルコーク1440(斜め軸に縦3回転、横4回転)を成功しながらも最後まで滑りきることがなかった平野が、決勝2本目で成し遂げたのは「さすが」としか言いようがありません。こんな凄いルーティンがあるのかと、驚きのあまり開いた口がふさがらなかったほどです。
さらに凄いのは、あれ以上完璧な滑りはないと思っていたところで、決勝3本目で同じルーティンながら完成度を高めてきたところ。より高く、より正確なパフォーマンスは、ジャッジに「これでもか」と見せつけているようにも感じました。
決勝2本目の採点に関して、日本でも大きな話題になっていると聞いています。あの点数が出た時、会場にはざわめきが広がりました。採点に不満を感じているのは日本だけではなく、スイスやフランスなど他国からもブーイングの声が飛んだほど。それだけ平野の超大技が会場に与えたインパクトは大きかったのです。あのまま2位に終わっていたら、大きな物議を醸す決勝として歴史に刻まれたかもしれません。それを心に残る歴史的決勝に変えたのは、五輪の大舞台、最終滑走というシビれる場面を独壇場にしてしまった平野の強さです。