誰が婦人科に行ったか、知らぬ間に学校で知られ… 女性の月経問題、最前線の課題は「地域格差」――競泳・伊藤華英「女性アスリートとニューノーマル」
男女の論争になりやすい課題「『女性が、女性が』と権利を主張するのではなく…」
生理の認知が広まるとともに、女性を支えるフェムテック領域も課題が明るみになっている。
「若い子たちが高くて生理用品が買えない経済的問題があり、大学の学生からも『ナプキン、高いです』『1252プロジェクトで配ってないんですか?』という声ももらいます。生理用品の種類などもあまり若い世代に認知されていない。10代の子たちを考えると、お母さんお父さんを含めた親御さんも一緒に学んでいく必要があります」
しかし、地道な活動を続ける中でポジティブな変化も感じている。
「高校生に講演をすると『私はつらくないけど、もしかしたら周りの人はつらいかもしれない。つらそうにしている人がいたら声をかけたい』と言う子もいます。他の人は違うんだと理解できたという反応はうれしいですし、女子のラグビーチームで『お互いにやっている生理対策も意外に知らないよね』というところから、生理担当の選手を決めて月1回課題を共有する動きもあったり、高校生ではパワーポイントを使って部活の監督にプレゼンして理解してもらう行動を起こしたりという話も聞きます。
ただ、それはまだまだごく一部で私たちが実際に行けたところだけ。本当は、みんなに知ってほしいです。私たちは一生、そこにはいられないから。だから、先ほどの地域の話もそうですが、場所によって温度が違うし、場所によってやり方やシステムが違う。私たちが『これ、やった方がいいよ』と言っても、当てはまらないことも多いので。ディスカッションやワークショップなどを繰り返しながら、1252プロジェクトで伝えた内容を、自分たちに適した色に染めていってもらいたいと思っています」
女性アスリート特有の課題解決において視野を広げると、月経問題に始まり、肌の露出が多いウェアの改善や競技会場での盗撮対策、出産後も競技を続けるための環境づくりなど、さまざまな議論が進んでいる。さらに社会全体でも男女平等を目指した女性活躍の推進など、確実に時代は変わっている。
しかし、女性視点で語られていくと、ネット上で“奢り奢られ論争”が起きたように「女性は大変と言うけど、男性も大変だ」という男女の対立構造が生まれやすい。この点を伊藤さんも危惧。「女性ばかりで何かを変えることはできないし、みんな一緒にやっていく必要があると思います」と訴える。
「例えばスポーツ界で課題に挙がる競技団体のジェンダーバランスも現実問題、役員の割合も男性がすごく多く、女性だけにアプローチしても変わらない。なので、男性にも理解してもらうことが重要。男性も選ばれた人が任されている訳で、女性の数が単純に増えればいいという問題でもない。だから、皆さん悩まれている。マイノリティが3割に達すれば、意見が代弁されて物事が平等になっていく。このような理論が存在します。それに基づいて、ジェンダーバランスも考えられています。
『女性が、女性が』と権利を主張するのではなく『実はこうなんだよ』と提示することで『変えられるじゃん、やってみようよ』と言える人が増えたらいい。もちろん、女性ばかりではなく、同じように男性もこういう課題があるから変えていこうと言える人も増えていけばいい。女性がこうしてほしいから、社会が変わって欲しいという一方的なものだと、誰だって嫌なもの。“男女”の区別になると論争が起きるのですが、みんなで理解して目標を達成していこうよと空気が醸成されてほしいですね」
性差の課題はスポーツ現場でも同じこと。
「そもそも性差でトレーニング方法も実は違っていいんじゃないかと思います。しかし、女性の研究がされていない中で、男性ベースのトレーニング方法だけでやってきた。それで選手が伸びたり伸びなかったりの差もあるかもしれない。スポーツは性差でカテゴライズされ、男女の発達によって筋肉量や脂肪量など、構造的に異なる生物としての平等さの観点から男女で分けられています。もちろん、今まで良くなかったと否定するのではなく、もっと知ったらやれるかもしれない。
そうすることで、女性のパフォーマンスももっと上がっていく。社会全体で見ても、女性の社会進出がよく言われますが、そんな視点で物事を考えたり情報を知ったりすれば、女性の選択肢も増えるのではないか。我慢して、しんどくて、つらくて職場が合わなくて辞めていくだけではなく、もうちょっとできる、楽しいと思ってもらえる。そのひとつに月経もあるので、ちょっとした対策でも気分良く仕事ができたりスポーツが楽しくできたりに繋がっていくと思います」