「生理で競技をやめる選手が1人でも減って」 伊藤華英が女子選手の悩みに寄り添う理由
コロナ禍で試合がなくなった学生の支援を行う一般社団法人「スポーツを止めるな」がこのほど、教育プログラム「1252プロジェクト」の発足を発表しました。月経など女子学生アスリートが抱える悩みに寄り添うことを目的としたもの。今回、「スポーツを止めるな」の理事に就任し、プロジェクトの中心メンバーとなっているのが、元競泳選手の伊藤華英さんです。オンライン会見で想いを明かしました。
女子学生アスリートの悩みに寄り添う「1252プロジェクト」に込めた想い
コロナ禍で試合がなくなった学生の支援を行う一般社団法人「スポーツを止めるな」がこのほど、教育プログラム「1252プロジェクト」の発足を発表しました。月経など女子学生アスリートが抱える悩みに寄り添うことを目的としたもの。今回、「スポーツを止めるな」の理事に就任し、プロジェクトの中心メンバーとなっているのが、元競泳選手の伊藤華英さんです。オンライン会見で想いを明かしました。
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伊藤さんといえば、10代から競泳界の第一線で活躍し、08年北京、12年ロンドンと五輪に2大会連続出場。そんな元オリンピアンが今回のプロジェクトを思いついたのは、オリンピックの経験でした。
「北京五輪で月経周期がちょうど当たってしまったんです」。なんとか対処しようと、知識がないまま大会2~3か月前にピルを常飲しました。しかし、体質と合わずに副作用が大きく、体重が3、4キロ増えてしまいました。「ハイパフォーマンスが求められるアスリートとして、体重が増えることは致命的。私自身、とてもつらい思いをしました」。これが、発案した理由になった経験だったといいます。
平均4.5日あるとされる月経期間について、伊藤さんは「大切な試合やトレーニングの追い込み期間と重なってしまうこともしばしば」とし、「一人一人が自分の周期やベストコンディションを知ったり、生理に対する正しい知識を得る、相談できる場をつくることで女子学生アスリートがもっと自分らしく競技と向き合える環境をサポートするためのプロジェクトを立ち上げます」と語りました。
プロジェクト名は「1252プロジェクト」。1年間の52週のうち、約12週は生理による影響を感じる期間に当たることに由来。「月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)を含めると、12週だけではありません」と伊藤さん。トップアスリートを対象にした630人のうち、91%が月経周期とコンディションに影響があると回答したデータに触れ、コンディションの良い時期も月経中、月経後など個人差があると説明しました。
トップアスリートも抱えている月経とコンディショニングの課題。今回は「生理×スポーツ」の課題に対し、トップアスリートの経験や医療・教育分野の専門的・科学的知見をもって向き合うことを目的とした教育・情報発信プロジェクトと位置付けています。「相談する先がない」「正しい情報がない」と感じている女子学生アスリート、指導する監督・コーチに向け、専門家の指導のもと、授業、セミナー型の情報発信も行うといいます。
現役時代、海外選手に「なんでピルを飲んでないの?」と言われ、知識の違いに衝撃を受けたという伊藤さん。「本当に無知の状態、それが私の場合、五輪だった。今になってみれば、体の影響が少ない低用量ピルを服用していたら……」と後悔を明かしました。
「当時、ピルを使っていた選手に聞くと、コーチに言われて婦人科を医者と相談して決めていたと。コーチの意識が高かったと感じますが、コーチだけに頼らず、そういう指導をしてくれる人がいたらと思いますし、コーチも(情報を)知っていく場所を増やしていきたいですね」
女性アスリートもどこに相談すべきか、婦人科に行くにしてもアスリートの競技に対する理解があるか、パフォーマンスが落ちないかなどと不安を持っているといいます。そうした切実な悩みに寄り添いながら、助けの機会を提供していくつもりです。
プロジェクト発足に際し、出した声明では、こんなメッセージがあります。
「生理は個人的なものだから? 人に話すのは恥ずかしいから? 自分はそんなに重くないから? だからといって、彼女たちに大切な1年、52週間のうち、約12週間も訪れる生理期間を『仕方ない』『そういうものだ』、そんな言葉で片づけてしまってもいいのでしょうか」
その上で、期間、症状、捉え方が違う月経のことも、正しい知識を身につけ、意見を交換することで女性アスリートとパフォーマンス、それを巡る環境はもっと良くなるはずだと願いを込めています。
会見に同席し、「スポーツを止めるな」の共同代表理事を務める元ラグビー日本代表・廣瀬俊朗さんは「指導している男性のコーチもいつどこで聞いたらいいか、どうしようと戸惑ってしまうのが現状。アスリートに限らず、ビジネスでも家族でも、みんなが学ぶべきこと」と頷きました。
これまでもメディア、自身のコラムなどで北京五輪の経験から、月経とコンディショニングの課題に取り組んできた伊藤さん。
「学生の7割が月経のトラブルを放置しているというデータも見ました。放置しておくと将来、無月経になったり、病気になったりということもある。月経のトラブルでスポーツを休んだり、競技をやめたりしないといけない若い選手が一人でも減っていけばと願っています」
その言葉は、女性アスリートとスポーツ界の未来に向けられています。