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「この生きづらさから逃げたい」 高2の冬、突然の病に困惑も…広場恐怖症との共生を決意させた言葉――ゴルフ・菅沼菜々

海外メジャーへの憧れもあると明かした菅沼【写真:増田美咲】
海外メジャーへの憧れもあると明かした菅沼【写真:増田美咲】

海外メジャーへの憧れも「今はできることに集中する」

 もちろん、一人のアスリートとして葛藤がないわけではない。海外メジャーへの憧れ、芝の違いを経験したいという本音は今も胸にある。

「全米女子オープンとか、行ってみたいですよ。芝の違いも経験したいし、空気感も味わいたい。でも、今は“ないもの”として考えるしかない。うらやましい気持ちはあるけれど、国内で何ができるかを考えるほうが健全。できないことより、できることに集中する。それしかないです」

 過去には、どうしても出場したかった北海道の試合のために、睡眠薬を使って移動を試みたこともあった。

「新幹線に乗る前に睡眠薬を飲んで、寝ている間に北海道に着く状況を作ろうとしたんです。でも、緊迫した状況だと薬が効かない。心臓がバクバクして『絶対無理!』となって、非常停止ボタンを押して降りました。救護室に行った途端に薬が効いて意識がなくなったんですけど……。結果的に周囲の方にご迷惑をおかけして大変申し訳なかったのですが、あの時、『あ、睡眠薬じゃ無理なんだ』と悟りました」

 治療にも簡単な答えはない。ドーピング規定の問題もあり、薬に頼ることは勝負への影響も大きい。「治したい」という願いと、「競技を続けたい」という意志。菅沼はその狭間で揺れながら、それでも今できる最善を選び取ってきた。

 さらに病気の公表には、当初迷いがあった。最初は言いたくなかったという。

「でも、絶対におかしいじゃないですか。北海道や沖縄の試合にだけ出ないのは。結果的に公表して良かったです。私の記事を見て『自分もそうだったんだ』と気づいた人や、『言いづらかったけれど、頑張っている姿を見て元気が出た』と言ってくれる人がたくさんいて。今は、発信して完全に良かったと思っています」

 制限がある中で、どう幸せを見つけ、どう結果を出すか。菅沼の戦いは、単に「ゴルフができるかどうか」ではない。恐怖を抱えたままでも、自分らしく生きられるという事実を、彼女は自分の体で証明し続けている。

■菅沼 菜々 / Nana Suganuma

 2000年2月10日生まれ。東京都出身。あいおいニッセイ同和損保所属。父の影響で5歳からゴルフを始め、名門・埼玉栄高に進学。17年の日本ジュニアゴルフ選手権を制覇し、翌18年のプロテストに一発合格した。プロ2年目の20年シーズン開幕前に、不安障害の一種である広場恐怖症を抱えていることを告白。飛行機や新幹線などの公共交通機関の利用が難しいため、車で移動可能な大会のみに参加している。23年8月のNEC軽井沢72ゴルフトーナメントで悲願のツアー初優勝。10月のNOBUTA GROUPマスターズGCレディースも制して2勝目を挙げた。24年はシード権を失う苦しいシーズンとなったが、25年5月のパナソニックオープンレディースで約1年半ぶりの復活優勝。アイドル好きとしても知られ、今年2月には「君の救世主になりたくて!」でCDデビューを果たした。

(金 明昱 / Myung-wook Kim)


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金 明昱

1977年生まれ。大阪府出身の在日コリアン3世。新聞社記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めた後、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。2011年からは女子プロゴルフの取材も開始し、日韓の女子ゴルファーと親交を深める。現在はサッカー、ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。著書に『イ・ボミ 愛される力~日本人にいちばん愛される女性ゴルファーの行動哲学(メソッド)~』(光文社)。

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