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病院に通うだけで「不妊治療」はおかしい 公表決断の理由、自分のために使った「妊活」の2文字――ゴルフ・有村智恵「女性アスリートとライフプラン」

公表して分かった妊活への固定観念

 妊活を発表したのは自分の年齢と真剣に向き合うことに加えて、「自分のため」というのが一番大きな理由だったという。

「SNSなどでいろんな意見も上がってくると思ったのですが、理解の声が圧倒的に多かったですし、自分自身がいろんな活動をしやすいように、という思いがあったからです。仕事をするにしても、試合に出るにしても休んだ時に、その理由を毎回聞かれるでしょうし、妊活で休むとなると仕事ができない時期が圧倒的に多いので、オファーをすべて受けるわけにもいきません。何も説明せずにお断りするのもおかしな話ですし、気持ちよく過ごしておきたいという思いから公表しました」

 また、公表することで分かったのは、同世代の選手たちに妊娠に関する知識がほとんどなかったということだ。“妊活”というワードから連想されるのは、触れてはいけないセンシティブな話題という固定観念だ。

「年齢の話や妊娠・出産の話題って、男性は触れづらい話題ですし、女性同士でも難しい部分もある。でも、そうした現実やリアルがあるということを知るのは大切なことかなと思います。私のように当事者だからこそ言えることもあると思っていますから。もちろん、すべてをさらけ出したいわけではないですが、体が資本の職業でもあるプロゴルファーには、かなり見失いがちな部分でもあるので、知ってもらいたいというのもあります」

 ちなみに有村は、“不妊治療”という言葉を使っていない。これにも確固とした理由がある。

「妊活にはステップアップして、いろいろなことを試す前に病院に通わなきゃいけない環境があります。なので、“不妊”という言葉を自分に向けて使うことには、すごく抵抗がありました。そもそも自分は不妊だとは思っていなかったですし、病院に通うだけで不妊治療というのもおかしい。世間に与えるイメージやインパクトも強いワードですよね。それならポジティブな言葉のほうがいいですから」

 今でこそ第一線から退き、休養、出産を経て再びツアーに復帰する選手が増えつつあるが、30代の選手のなかにはシード権を持たないが試合に出たいという独身の選手も数多くいる。国内女子ツアーには45歳以上が対象の「レジェンズツアー」はあるが、30代の選手が出られる試合はレギュラーツアーか下部の「ステップ・アップ・ツアー」になる。

 これもQT(予選会)ランキングがなければ、出場権利がないことから、若手にはじき出された30代の選手たちは、出られる試合がなければ、いわば職場を失った状態になる。そんな現状を見かねた有村は22年から自らが主導し、30歳以上のプロゴルファーによるワンデートーナメント「KURE LADY GO CUP」を開催している。

「プロゴルファーだけれどシードを持たないとか、子育てしながらも試合に出たいという選手は多いんです。そんな悩みを抱えている選手たちの現状を知ってもらうこともそうですが、自分自身や私なりにこうした形で協力できればという思いでやっています。みんなが活躍できる場所を増やすためには、まずは環境作りが本当に大切だと感じています」

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金 明昱

1977年生まれ。大阪府出身の在日コリアン3世。新聞社記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めた後、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。2011年からは女子プロゴルフの取材も開始し、日韓の女子ゴルファーと親交を深める。現在はサッカー、ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。著書に『イ・ボミ 愛される力~日本人にいちばん愛される女性ゴルファーの行動哲学(メソッド)~』(光文社)。

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