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「出産のタイムリミット」を意識した30歳の転機 妊娠公表の裏で葛藤、アスリートとして芽生えた恐怖心――ゴルフ・有村智恵「女性アスリートのライフプラン」

厳しい現実と勇気づけられた同世代ゴルファーの姿

 ただ、年を重ねるごとに世代交代と競争の激しい世界へと変化した。その要因は様々だが、若手の技術レベルの向上、トレーニング理論や道具の進化、インターネットの普及で世界のプレーを気軽に見られる環境になったことなど、挙げればキリがない。

 実際に世界を見渡しても20代前半の選手がツアーを牽引しており、10代の選手も実力次第でのし上がることができる。有村も2018年の1勝を最後に優勝から遠ざかり、若手の勢いに押し出される形で2022年にシードを喪失した。デビューした当時の“長くゴルフを続けられる”イメージから、大きくかけ離れていく現実を知る。

「ツアーの環境が急速に変化したのはここ10年くらいです。たとえ1度でも出産などでツアーを離れると、プロゴルファーを続けられるのかとか、自分にどれだけのリスクがあるんだろうという恐怖心が芽生えてきて……。それに20代の頃は無知なので、結婚や出産も自然とできると思っていて、それほど高いハードルじゃないと思っていた部分はありました」

 当事者になって初めて気づくことは多いが、大きく考え方が変わったのは30歳になった時だという。

「女性は20代から30代になる時、数字に敏感にもなるかもしれません。出産もタイムリミットがあるというのも分かっていて、それを現実的に感じてしまうのが『30』という数字が見えた時でした」

 これから自身のライフプランをどう立てるべきか――。女子プロゴルファーとして、女性アスリートとして選択と決断が近づいている現実。それを受け止めることは、何度も優勝を経験してきた有村にとってはそう簡単なことではなかった。

「子供を持ちたいと思ったら、あと何年、ゴルフができるのかなと考え始めました。とはいってもツアー生活はまだ続けられる年齢だし、ゴルフも楽しい。でも妊娠、出産となれば、2年は離れますよね。でも実際に自分が妊娠すると『離れる』という単純な問題じゃなく、出産までは『命がけ』なんだと今まさに体感しているところです。現実を知れば知るほど簡単に戻れるものじゃない。もしかしたらツアー復帰は時間がかかるかもしれないし、戻れないかもしれない。そんな思いも湧いたりしました」

 想像よりも現実はもっと厳しい。それでも勇気づけられたのは、年齢の近い女子プロゴルファーたちの活躍だ。35歳の若林舞衣子(ヨネックス)は19年に第1子出産後にツアー復帰し、21年に4年ぶりのツアー4勝目を挙げた。有村がバリバリ活躍していた頃、ライバルだった横峯さくら(エプソン)も出産後に復帰し、キャディを務める夫と二人三脚でツアーを転戦している。

「(横峯)さくらさん、若林さんも出産後に復帰して、子育てとゴルフを両立するのは本当に凄いことで大変な決断だと思います。きっといろんな葛藤の中で復帰されたんだと思います。実際に大きな夢を持たせてもらっていますし、自分も子供にプレーしている姿を見せたいという憧れがあって、いつかは叶えたいです。

 ただ、それを実現する大前提として、『子供を見てくれる人がいること』が最低条件ですよね。私は、実家の熊本に両親がいますが、私たち夫婦は東京に住んでいる。子供ができたら、遠く離れている両親、一緒に住む夫と協力することはできても、いろいろな難しい条件が重なると復帰へのハードルが上がります。そこをどう解決するのかという問題は、きっと仕事を持つ多くの女性が抱える共通の悩みだと思います。私の気持ち的にもしっかり子育てしてみたいなという思いもあるので、そう考えると復帰はそう簡単なことではないと実感しています」

 各家庭にそれぞれ子育ての形は違ってくるが、まさに有村も出産後の子育てとツアー復帰の両立をどのような形にしていくべきかは、その時々で考えていくのだろう。

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金 明昱

1977年生まれ。大阪府出身の在日コリアン3世。新聞社記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めた後、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。2011年からは女子プロゴルフの取材も開始し、日韓の女子ゴルファーと親交を深める。現在はサッカー、ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。著書に『イ・ボミ 愛される力~日本人にいちばん愛される女性ゴルファーの行動哲学(メソッド)~』(光文社)。

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