[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

先輩の言葉に「そういう未来もあるのか」 五輪金メダルから1年半、引退発表の裏にあった本心――柔道・角田夏実

柔道の裾野を広げる活動に興味があると語る角田さん【写真:松橋晶子】
柔道の裾野を広げる活動に興味があると語る角田さん【写真:松橋晶子】

柔道で学んだことを広く伝える活動へ

「柔道が好き」。取材中、何度も角田さんの口から出た言葉だ。人に投げられたり、畳に叩きつけられることなんて、柔道をやっていなかったら経験しなかったに違いない。「何でこんなキツいスポーツをしているんだろう」と思うことは何度もあった、と笑う。

本当にしんどかった重い生理痛 婦人科医に相談、服用し始めたピルが私には合った――サッカー・仲田歩夢選手【私とカラダ】

「でも、自分が投げられる悔しさを知っているからこそ、技が決まった時はたまらなく嬉しい。何もかもタイミングがピッタリはまると、投げられた方もびっくりしちゃうぐらい、力を使わず、本当にキレイに相手を投げられるんです。

 柔道は同じ技をかけるにも、相手の体形や受け方、技の入り方、力の入れ方などですべてが変わってきます。巴投げも、二つとして同じものはありません。相手がいて私がいて、2人の戦いのなかで作り上げていく。この駆け引きが柔道の良さであり、楽しさかな」

 今は柔道選手の強化よりも、柔道の裾野を広げる活動に興味がある。日本の子どもたちに柔道を広めること。大人の未経験者や親子で習いたい人にも、敷居の高さを感じさせない道場を開くこと。そして、柔道に熱心な他国の道場との交流――。やりたいことは山ほどある。

「柔道は強い体と心を作る。受け身ができるだけでも、体の使い方や自分の身の守り方が身につきます。

 子どものうちに受け身だけは覚えて、他の競技に行ってもプラスになるし、大人の健康づくりにも役立ちます。柔道一本でなくていい。他のスポーツや体作りなどに、柔道をうまく使ってもらいたいと考えています。

 柔道を通してたくさんの人と出会い、いろんな経験を積んだことで今の私があります。今後は柔道で学んだことを広く伝えていきたいし、自分自身にも生かしていきたい。そうすることが、自分の幸せでもあると思うから」

 もう一つ、思い描く未来の姿がある。それは、母として再び、畳の上で戦うことだ。

「最近、3人のお子さんがいる一つ上の先輩から、『実は国体に出場したんだよね』という話を聞いたんです。出産後に復帰した谷亮子さん(柔道家。五輪00年シドニー大会、04アテネ大会、女子48キロ級金メダリスト)の姿も見てきましたが、自分がどこまでやるのかの想像はついていなかった。でも、先輩の話を聞き、あぁ、そういう形で試合をする未来もあるんだなと思いました。

 いつか私も、出産後に試合をしたいと思う日が来るかもしれません。だから第一線は退いたけれど、『もう一切試合に出ません』と宣言するのは、ちょっと違うかな。自分の限界を、決めてしまう気がするから」

 競技者として世界の舞台からは下りても、1人の柔道家としての引退はない。自らの可能性に挑む柔の道は、今後も長く続いていく。

【柔道・角田夏実さんの「心とカラダが満たされていると感じる瞬間」】

「自分が納得して決めたことを、やり切った時です。私は常に自分とどれだけ向き合ったか、自分に嘘をついていないかを、すごく大事にしています。自分のなかには『天使と悪魔』ではないけれど、『2人の自分』がいて、どう行動するべきかを常に互いに問いかけています。そうやって、自分と向き合い、納得して『やる』と決めたことは、全力で頑張れるし、やり切りたいという強い想いも生まれます。すると、体も心も一番前向きに進むことができるし、結果がどうであれ、やり続けている間はずっと充実しています」

※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「心とカラダが満たされていると感じる瞬間」を聞き、発信しています。

■角田 夏実 / Natsumi Tsunoda

 1992年8月6日生まれ。千葉県出身。八千代高-東京学芸大-了徳寺大学職員-SBC湘南美容クリニック。小学2年の時、父親の勧めで柔道を始める。東京学芸大3年時に全日本学生体重別選手権52キロ級を制覇。同大初の学生日本一になる。大学卒業後、巴投げや関節技を武器に台頭。2017年世界選手権では52キロ級で準優勝。同年48キロ級に転向すると、21~23年世界柔道選手権で3連覇を達成した。グランドスラムでは22~25年の48キロ級の4連覇を含め、通算5回優勝。初出場となった24年パリ五輪では、日本柔道史上最年長の31歳11か月で金メダルを獲得した。26年1月、競技引退を発表。現在、各種メディアやイベント出演、柔道教室などを通し、柔道を広める活動を中心に活躍する。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)


W-ANS ACADEMY

1 2 3

長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。人物インタビュー、ヘルスケア、ダイエット、トレーニングの分野を軸に、雑誌、書籍等で編集・執筆を行う。担当書籍に『すごい股関節』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
CW-X
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集