「この国で休むって大事件」 休みづらい日本で…選んだ1年間の休養が「正解だった」と言える理由――バスケ・馬瓜エブリン「女性アスリートと多様性」
「休養が取りづらい風潮が日本にはある。一つの事例として見せたかった」
「本当に、休んで良かった。正解だったと思っています」
あれから1年半あまり。コートに帰ってきたエブリンは休養を振り返り、迷いなく言う。「自分を見つめ直す時間になり、いろんな方と関わることで自分がアップデートされる時間になった。確実に、復帰してからもバスケに繋がったと思います」
休むことに静的と動的があるとすれば、エブリンの場合は後者。
知名度を生かし、バラエティ番組はもちろん、男子ワールドカップ(W杯)の巧みな解説が話題になるなど、エネルギッシュに活動。さらに、休養期間中にバスケット選手ともう一つ、肩書きが増えた。社長だ。
マネジメント会社「Back Dooor」を設立。米国のシリコンバレーを視察して起業家やベンチャーキャピタルと交流し、利用者がアスリートと1対1のビデオ通話で交流できるサービスを手掛けるなど、手腕を発揮した。
実は小さい頃にオリンピック選手ともう一つ、夢に描いていたのが「社長になること」だった。
高校時代から体育館にある新聞を読み、社会情勢をチェック。選手生活の傍ら、経営の本を読み漁り、ツイッターを創業した実業家ジャック・ドーシーの哲学に憧れた。現役中に起業したのも、スポーツ領域なら知名度や人気を含めた「現役選手」の鮮度を利用したかったから。
しかし、「どうやって世の中が回っているか知っているつもりでも、実際にやってみたら(想像)より複雑で。自分のできないことがいっぱいあった」と言う。
「今まで1人で何とかするところも、できないことを認めて、周りの方に頼ったり、お願いしたり。凄く勉強になった。もちろん勉強も必要だけど、行動ひとつで凌駕できるということも見えた。そういう意味では、起業したことは自分の中では大きかった」
競技と並行してキャリアを形成する「デュアルキャリア」という言葉がスポーツ界に溶け込みつつある時代。一人の人間としても成長に繋がり、プレーヤーとしても自分が得点するかより、周りがどう生きるかの視点が広がった。
何より、休養して3か月でもうコートに戻りたくなった。一番大切なバスケ愛も再確認した。
「ポジションがなくなる、パフォーマンスは下がることは承知の上。五輪で銀メダルを獲れたという人生で凄く大きな出来事があり、ここで休んだとしてもデメリットよりメリットが大きい。アスリートじゃなくても、なかなか休養が取りづらい風潮が日本にはある。一つの事例として見せかったこともあります」
ハンガリーの舞台で獲得した五輪切符は、選択が正解であることのひとつの証明と言っていいだろう。
筆者はエブリンを初めて取材した。質問のたびに真剣な表情で、意図をかみ砕きながら端的な言葉が返ってくる。ひと言で言えば、聡明。テレビで見るキャラクターも計算の上だろうが、表向きの印象とギャップが大きい。それを伝えると、本人は笑った。
バスケを知らないお茶の間に「バスケをやっている面白い人」と認知されても、エブリンは意に介さない。
「こんなこと言ったら怒られてしまうかもしれないですが、真面目な番組より面白い番組の方がみんな見るじゃないですか(笑)。そういう意味でも自分自身のもともとのキャラクターもあって、いろいろ出演させていただいたのは凄く自分の中で楽しかったですね」