日本で縛られていた「こうあるべき」の風潮 結婚・出産を経て、36歳で出場した4度目の五輪――バレーボール・荒木絵里香
東京五輪を終え、家で待っていた娘がくれた手作りの賞状とメダル
2020年に予定されていた東京五輪がコロナ禍により、1年延期に。2021年、4度目となったオリンピックの夢舞台。予選リーグ敗退を最後に37歳で現役引退した。
長い競技生活を振り返ると、娘の存在が励みになったことがたくさんある。「娘が生まれてからはオンオフのメリハリがつきました。ダラダラと競技のことを無駄に悩まなくなったし、スイッチができて集中力高く練習に取り組めるようになりました」という。
「最初は娘が記憶に残るまで選手でいたいと思っていました。でも、育っていくうちに『ママがどういう選手だった』というのは娘として、そんなに大事ではないと分かってきたので、私は自分のやりたいこと、夢や目標に向かって取り組んだ姿を見てもらえたら、と。9歳の今はまだ分からなくても、どんどん年齢を重ねて、彼女なりに理解できること、感じられることがきっと生まれてくる。何か良い影響を受け取ってもらえたらいいなとは思います」
2020年の東京五輪に向かう中で「ママはここで選手は終わるからね」と事前に引退について伝えていた。娘には寂しい想いばかりさせたが、2021年に五輪を終えて自宅に帰ってくると、手作りの賞状とメダルを持って「お疲れさま」と言ってくれた。自分の選択に誇りを感じられた。
現役生活を離れ、およそ1年半。「いってらっしゃい」と「おかえり」を言える機会も増えた。母として、そんな日々に幸せを感じる。「娘はスポーツはテニスとダンスをエンジョイしながらやっています。私の影響でバレーボールは嫌いなので……」と明るく笑い、改めて振り返る。
「出産した時は何歳までやろうと考えていなかったし、ここまで長くできるとは思っていなかったです。日本代表を目指していたわけでも、五輪にもう一回行こうと思っていたわけでもない。終わってみると、想像以上の場に行くことができたなって思えます。これも周りの皆様の理解やサポートがあったからこそだと思います。感謝、感謝です」
海外挑戦、結婚・出産、五輪4大会出場と駆け抜けた現役生活。しかし、引退から半年後、もう一つ大きな決断をした。大学院進学。新たな挑戦の始まりだった。
■荒木 絵里香 / Erika Araki
1984年8月3日生まれ。岡山・倉敷市出身。小学5年生からバレーボールを始める。成徳学園高(現・下北沢成徳高)では同級生の大山加奈らとともに高校全国3冠を達成。卒業後の2003年にVリーグ・東レアローズに入団した。1年目に日本代表デビューすると、2008年北京五輪に出場(5位)、2012年ロンドン五輪は主将として女子28年ぶりの銅メダル獲得に貢献。2013年に元ラグビー日本代表の四宮洋平さんと結婚、出産を経て2014年に復帰した。2016年リオデジャネイロ五輪(5位)に続き、4大会連続出場した2021年東京五輪(予選リーグ敗退)を最後に現役引退。VリーグでMVP2度、ブロック賞8度、歴代最多得点、最多セット出場数など。現在はトヨタ車体クインシーズのチームコーディネーター、バレーボール解説者などを務めながら、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に在籍。身長186センチ。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)