陣痛から32時間かかった難産 日本女子サッカーの未来へ、実体験から伝える岩清水梓の提言
今、女子サッカー界に必要なものは「情報と環境面の整備」
今、岩清水が女子サッカー界に必要と感じているのは、圧倒的に不足する情報と環境面の整備だ。
本当にしんどかった重い生理痛 婦人科医に相談、服用し始めたピルが私には合った――サッカー・仲田歩夢選手【私とカラダ】
経験者が少ないことで、得られるデータも限られる。妊娠・出産は個人差が大きいため、すべての人にそのデータが当てはまるわけでもない。そして、情報量の少なさは、そのまま選手の不安につながる。
「例えば、膝のケガだったら復帰までは長くても1年くらい。そのプログラムも既にあるので、ケガをした時点で復帰までの過程を逆算して考えることができる。だけど、妊娠・出産は個人差が大きい。出産までトレーニングできる人とできない人がいるし、出産後もすぐにトレーニングを始められる人もいれば、私のように何か月かかっても始められない人もいる。復帰のメドが立ちにくく、逆算ができないことが難しいのかなと思います」
環境面の整備については、妊娠・出産後も安心してサッカーに集中できることが重要と考える。岩清水の場合、所属チームのメインユニフォームパートナーの協力は大きかった。
日テレ・東京ヴェルディベレーザを10年以上サポートする株式会社タスク・フォースは、都市型保育園「ポポラー」やイベント会場で託児所を運営する会社だ。岩清水も妊娠が分かるとすぐに相談した。
「自分の場合は出産前から『選手として復帰したいので、子どもを預かってほしい』とお願いしました。パートナーとして長年協力していただいている会社ですが、まさか選手の子どもを預かることができるとは思っていなかったみたいで、すごく喜んでくれて。『いつでも練習復帰して預けてくださいね』とすんなり受け入れてもらえました。試合時についても相談したら、音楽のライブ会場やイベント会場でも託児所を運営しているので、場所さえ用意してくれたら対応できる、という話になったんです。本当にありがたかったです」
岩清水がベンチ入りすると、ホームスタジアムの一角に選手専用の託児所が設置される。現在の利用者は岩清水だけだが、近い将来、選手の子どもたちがここでお母さんの試合を見て、帰りを待つ“日常”がやってくるかもしれない。
女子サッカーの強豪国、アメリカでは現役代表選手が妊娠・出産するケースは日本より多い。しかし、妊娠時、出産後の回復プログラムの資料は作られていないという。もし資料が存在すれば、肉体面だけでなく精神面でのサポートが可能になり、不安の軽減にもつながるのではないだろうか。