陣痛から32時間かかった難産 日本女子サッカーの未来へ、実体験から伝える岩清水梓の提言
「THE ANSWER」は3月8日の「国際女性デー」に合わせ、女性アスリートの今とこれからを考える「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「女性アスリートが自分らしく輝ける世界」をテーマに1日から8日までの1週間、8人のアスリートが登場し、8つの視点でスポーツ界の課題を掘り下げる。2日目は「女性アスリートと出産」。女子サッカーの元なでしこジャパン・岩清水梓(日テレ・東京ヴェルティベレーザ)が登場する。
「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」2日目 テーマは「女性アスリートと出産」後編
「THE ANSWER」は3月8日の「国際女性デー」に合わせ、女性アスリートの今とこれからを考える「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「女性アスリートが自分らしく輝ける世界」をテーマに1日から8日までの1週間、8人のアスリートが登場し、8つの視点でスポーツ界の課題を掘り下げる。2日目は「女性アスリートと出産」。女子サッカーの元なでしこジャパン・岩清水梓(日テレ・東京ヴェルティベレーザ)が登場する。
10代のアンダー世代から日本代表で活躍し、2011年女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会で優勝するなど、女子サッカー界を牽引してきた名ディフェンダーは、32歳で一般男性と結婚。現役選手のまま、33歳で長男を出産した。後編では、陣痛から約32時間かかった難産で復帰計画に狂いが生じた実体験を明かし、アメリカ代表などの実例から、日本の女子サッカー界の未来に向けた提言をした。(取材・文=THE ANSWER編集部・出口 夏奈子)
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日本のサッカー界において、現役を続けながら妊娠・出産を経験するケースは珍しい。特に岩清水梓のように代表経験がある現役選手では、現在なでしこジャパンのコーチを務める宮本ともみ氏以来である。
女子サッカー界では、結婚・出産は現役を退いてから、というのが暗黙の了解だった。岩清水自身も、32歳の妊娠を機に引退が頭をよぎった。しかし、現役のまま出産することを決めた。それは、世界を相手に戦ってきた代表時代の経験に起因する。
「アメリカ代表の選手たちは普通に出産し、代表復帰していて、当たり前のようにグラウンドに子どもたちがいるのを見てきました。あれを全く見たことがなかったら、自分自身も現役で出産することをイメージできなかったかもしれません。世界にはそういう代表チームがあることを目にしていたので、現役選手の妊娠・出産については賛否両論あるだろうけど、別に悪いことではないんじゃないかと感じていました」
ほぼ前例がないなかでの妊娠と出産。それを実際に経験したことで、出産後すぐに代表レベルに戻す海外の選手たちがどれだけすごいかを実感した。岩清水の場合は陣痛から出産まで約32時間かかった、いわゆる難産であり、その影響で恥骨を負傷。痛みが激しく、起き上がることも困難だった。
出産したのは2020年3月。その時点で復帰までの計画は狂ってしまった。
「出産半年後の9月のリーグ後半戦からは試合に絡みたいという願望を持っていました。しかし、実際には恥骨の痛みで出遅れ、5月のゴールデンウィーク頃からようやく動き始めたくらい。ただコロナ禍になり、試合も中止。クラブハウスに通えなくなってしまった。JISS(国立科学スポーツセンター)の産後期のサポートプログラムをトレーナーにかみ砕いてもらい、自宅で行っていたのですが、人に見てもらわないとなかなか進まなくて。結局、クラブハウスに行けるようになったのは出産から3か月以上経った6月後半。そこから機能改善のための回復プログラムのトレーニングを始めました」
チームの全体練習に合流できたのは11月。さらに不運も重なった。従来は3月に新シーズンがスタートしていたが、ちょうど女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が誕生するタイミング。開幕が9月にズレ込み、リーグ戦復帰はさらに半年遠のいた。
さまざまな要因があったとはいえ、出遅れた理由について「出産前にチームから離れるのが少し早かった」ことを挙げる。情報がないため、胎児への影響の不安を解消できず、早めにチームを離れた。その結果、出産後に「体力を戻すことがすごく大変になった」と明かす。
「そういう面ではアメリカ代表の選手は、妊娠中でも当たり前のようにサッカーをやるのがスタンダードになっているのだと思います。お腹が大きくても普通にボールを蹴る。その絵は自分にはなかったので、妊娠中には分からなかった」