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なぜ、競技にピルは広まらないのか 女子選手が知るべき「服用のメリットとリスク」

元競泳代表の伊藤華英さん(右)と産婦人科医の江夏亜希子氏【写真:編集部】
元競泳代表の伊藤華英さん(右)と産婦人科医の江夏亜希子氏【写真:編集部】

無駄な排卵を止めることで卵巣がんのリスクは減る

――「女性活躍」が謳われていますが、言葉が先行している印象もあります。その点はスポーツ以前に、社会全体としての問題が大きいということでしょうか。

本当にしんどかった重い生理痛 婦人科医に相談、服用し始めたピルが私には合った――サッカー・仲田歩夢選手【私とカラダ】

江夏「私はそう思います。私自身、最初はスポーツ界で困っている選手一人ひとりに説明して、ピルを使う人を増やしていけば、一般女性も動くんじゃないかと思っていました。ただ、スポーツ界こそ男性社会。男性の論理で動いているので、(一般女性と)どちらを先に啓発するべきなんだろうと思ったりしました」

伊藤「私はピルを飲んだ方が楽でした。私の場合は大学院時代に勉強している時がすごくつらかった。不正出血になったりして寝られないし、でも、飲み始めるとすごく楽だった。絶対に月経が来るタイミングが分かって準備する日と決まっていたし、PMS(月経前症候群)が来なくてイライラせず、安定した精神状態を保てました。現役時代はそのイライラがすごくひどかったから、親にもかなり心配をかけましたし」

江夏「日本代表のチームドクターとして、伊藤さんと一緒に試合に初めて行ったのが、2003年世界水泳バルセロナでした。当時は日本でピルが発売になってまだ4年後。だからか、ピルを勧めても使いたいという選手と、全くの無関心という選手が真っ二つでした」

伊藤「私のコーチは飲むなという感じでした。私自身は当時18歳で体ができてくる直前、月経の周期が安定したのは19歳くらいからだったので、その時は月経のことが分からなかったんです。女の子だから来るものだと教えられているけど、知識は小中学校の保健体育くらいだったし……」

江夏「世界家族計画協会では初経から月経が3回来たらピルは飲んでいいと言っています。仕組みが確立したから月経は来るわけなので。ピルというのは排卵に伴い卵巣から出している(月経を起こすための)女性ホルモンを少量、バランス良く、飲んでいるだけ。内服すると『ホルモンがバランス良くあるので自分ではホルモンを作らなくていいよ』と脳が認識し、排卵が止まる。それが、避妊につながる仕組みです。そういう薬なので『初経がきた=自分でホルモンを出せる』と分かった人は飲んでいいですと言われているのですが」

伊藤「ピルを飲むと病気のリスクも減るんですよね?」

江夏「妊娠せずに毎月毎月、排卵・月経が来ることが、月経痛をひどくして将来、不妊のリスクにつながる子宮内膜症という病気の原因になっているので、子供を産む数が減った現代女性の場合、ピルを飲んで排卵の数を抑えてあげるのは内膜症の予防につながると考えられます。また無駄な排卵を止めてくれるので排卵痛も収まったりする。あと排卵は卵巣を傷つけるので、卵巣がんのリスクも半分に下がると言われています。

 私の祖母世代では栄養が十分ではなく初潮が遅く16、7歳くらいですが、ここ20年ほどは12歳。初経は早くなっていますが、初めてのお産は平均30歳を超えています。活発にホルモンが出ている最初の十何年に毎月毎月、排卵・月経が来ることで内膜症は増えている。それが不妊につながっているという側面があります」

伊藤「私は結構、遅くて15歳くらい。栄養が足りてなかったのかな(笑)。でも、現役時代は練習が多くてごはんが食べられず、栄養失調に3回なりました。でも月経は止まったことなかったですね、体脂肪も18%以上はあったので」

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伊藤 華英

 日本代表選手として2012年ロンドン五輪まで日本競泳会に貢献。2004年アテネ五輪出場確実と騒がれたが、選考会で実力を発揮できず、出場を逃す。水泳が心底好きという気持ちと、五輪にどうしても行きたいという強い気持ちで、2008年女子100m背泳ぎ日本記録を樹立し、初めて五輪代表選手となる。

 その後、メダル獲得を目標にロンドン五輪を目指すが、怪我により2009年に背泳ぎから自由形に転向。自由形の日本代表選手として、世界選手権・アジア大会での数々のメダル獲得を経て、2012年ロンドン五輪・自由形の代表選手となる。2012年10月の岐阜国体を最後に現役引退。

 引退後、ピラティスの資格取得とともに、水泳とピラティスの素晴らしさを多くの人に伝えたいと活動中。また、スポーツ界の環境保全を啓発・実践する「JOCオリンピック・ムーヴメントアンバサダー」としても活動中。

江夏 亜希子

1970年、宮崎・都城市生まれ。96年に鳥取大学卒業後、鳥取大学産婦人科に入局。鳥取大学医学部附属病院、公立八鹿病院(兵庫県)、国立米子病院(現・米子医療センター)などの勤務を経て、04年に上京。汐留第2セントラルクリニック、イーク丸の内、ウィミンズウェルネス銀座クリニックにて女性外来での診療を経験する傍ら、東京大学大学院身体教育学研究科にてスポーツ医学を学び、10年4月に東京都中央区に四季レディースクリニックを開院。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクターなど。日本エンドメトリオーシス学会、日本性感染症学会、日本臨床スポーツ医学会にも所属する。

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