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「女の子だから」って枕詞は使わなくていい 今、この時代に女性がラグビーを戦う意義

チームの支柱として引っ張る最年長33歳、中村知春【写真提供:日本ラグビーフットボール協会】
チームの支柱として引っ張る最年長33歳、中村知春【写真提供:日本ラグビーフットボール協会】

子供たちに伝えたい「『女の子だから』という枕詞を使わなくていいんだぜ」

 前回のリオデジャネイロ五輪。金メダルを目指した日本は1勝4敗で1次リーグ敗退となり、10位という結果に終わった。身も心もボロボロになった最終戦の後、中村は地球の裏側まで応援に駆け付けた家族や関係者を前に、初めてピッチ上で泣いた。

 敗因は「金メダルを獲ること自体が目的になってしまったこと」と振り返った。

「なぜ金メダルを獲りたいか、金メダルを獲ることの先にあるもの、例えば、それは女子ラグビーの価値を上げることでないといけなかったのに……。だから、私たちは弱かったのだと思います。なぜ勝ちたいか、自分の中で答えがないと挫折した時に立ち上がれない。みんなが目指している一番大きな目標は女子ラグビーの価値を上げること。代表にいる以上はそのためにベストを尽くして戦わないといけないと思います」

 東京五輪でメダルを目指すことは「手段」で、ラグビーの価値を上げることが「目的」。だから、中村はことあるごとに言い伝えてきた。「オリンピックに出ること自体が目的になったらいけないよ」と。

 その中村の想いを胸に、若い選手たちは東京五輪のメダル獲得を女子ラグビーの未来につなげるつもりだ。

 年間250日近くを代表チームで過ごし、一体感を醸成。体格で劣る分をスピード感と粘り強さで補い、世界に立ち向かう。

「誰もがチームのために尽くす精神を持っていて、何よりみんな本当にすごく良い子。もう心が本当に綺麗で……」とサクラセブンズの魅力を表現した白子は、競技のこの先について「子供たちがスポーツをやるときに野球、サッカー、バスケなどのメジャースポーツの選択肢にラグビーが女の子でも入るようになったらすごくうれしいです」と描いている。

「女の子がラグビーなんて」。そのフレーズが好意的な意味であれ、それ以外であれ、彼女たちはマイノリティを自覚する声を何度も聞いてきた。しかし、ラグビー経験者の父の勧めで双子の弟と一緒に競技を始め、幼少期は男の子に交じってプレーしてきた堤は、女子ラグビーの面白さを語る。

「私のように、ちっちゃい選手(153センチ)でも大きい選手に張り合える。そういった瞬間はスカッとします。普通ならできないと思ってしまうことにチャレンジできる場でもあるし、自分の可能性を広げられるスポーツなんじゃないかと思います。これをしたらダメという制約がない。相手に当たってもいいし、味方にパスしてもいいし、大きくキックしてもいい。そういうところにラグビーをプレーする魅力はあると、私は思っています」

 もし、競技に興味を抱いた時、女の子にとって「痛い」「危険」というネガティブな印象を持たれかねないことは承知している。しかし、中村は子供たちに向け「『女の子だから』という枕詞(まくらことば)を使わなくていいんだぜって、示せる競技だと思うんです」と言った。

「女らしさ、男らしさと何かと言われる時代。今の社会もそうだと思いますが、女の子が少人数だけど男の子の中でやってきた経験は、男性社会でマイノリティとして頑張る女性の存在をエンパワーメント(力を与え、状況を変えていくこと)できる可能性がある競技だと、私は思います。なので、女の子だからって、良い意味でも悪い意味でも『そんなこと言わなくていいよ、ここなら』と、私たちが戦う姿で伝えたいと思っています」

 目的は、女子ラグビーの価値向上。東京五輪で勝つことが、その最大の手段であることを、彼女たちは知っている。

(2021年5月に取材)

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)


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