WBCで当たり前に150km超を連発した侍J投手陣 なぜ日本はこんなに球速が速くなったのか
決勝の試合前に印象的だった伊藤大海とダルビッシュのウォーミングアップ
もちろん、情報が多い時代だからこそ注意も必要です。これは野球に限りませんが、受け手側が自分で情報を吟味し、取捨選択できる能力が必要になってくる。気軽に発信される情報の影響は間違いなく大きくなり、それはメリットも多いですが、気を付けるべきこともある。
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例えば、大会期間中もフォークの投げ方の話をしましたが、有名投手と同じ握りをしたから同じ変化をするわけではないのと全く一緒で、同じトレーニングをしたから同じ身体になるわけではない。もっと言うと、理屈だけではどうしても説明できない部分は必ずあるもの。
原理的にはこうした方がいい、体の構造上はこうすべきという意見があっても、一人一人が生きてきた環境や時間は違うので、必ずしも100%正解ではない。
また、表層だけで良い悪いを判断するのも危険です。やり込んでみて初めて分かることがあると思います。そこは受け手が鋭い感度を持つこと、頭をしっかり使うことが、より必要な時代にはなってきています。
話は逸れますが、決勝を現地で観戦して印象的だったのが、伊藤大海投手とダルビッシュ投手が試合2~3時間前にやっていたウォーミングアップです。
WBCの決勝という晴れ舞台ながら、アップで自分がすべきことが決まっていて、浮かれることなく、他の投手と戯れることもなく、いつもと同じように自分がやるべきことを黙々とやっている印象。特に伊藤投手は今大会、日本の投手陣のなかでも抜群の安定感がありましたが、それにも理由があったのだと感じさせられました。
今、学生を指導していると、アップは公式戦になると普段と違うことをやってしまったり、キャッチボールを強く投げすぎてしまったりという子が多い。大事なのは練習だろうが、1回戦だろうが、決勝だろうが、やるべきことが常に一緒ということ。それは、この日の伊藤投手とダルビッシュ投手の姿に強く感じました。
そして、今大会の学びと発見の2つ目は「高めのストライクゾーン」の使い方です。
大会を見ていた人のなかには「それ、ボールじゃない?」と感じた高めの球がストライクだったことがあるかもしれません。しかし、米国では数年前からストライクゾーンとして多く使われている印象があり、もともと取られていたコースでした。
これまで高めの変化球はタブーとされがちでしたが、高めの変化球で打ち取れる、あるいは高めの変化球が弱い打者は一定数います。そのなかで、日本の投手陣で高めを駆使して打者を打ち取っていた投手がいました。ダルビッシュ投手と大谷投手です。
(後編へ続く)
■内田聖人 / Kiyohito Uchida
1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌2019年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りでピッチングストラテジストに転身。2020年に立ち上げたパフォーマンスアップオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。今も最速155キロを投げる。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)