阿部兄妹の入れ替わった明暗 兄の示した屈辱からの這い上がり方、妹は試練を越えるか
号泣の妹・詩、3か月前に兄へ送ったエール「もう一回私を引っ張る存在になって」
世界の頂点に立てば、研究対象となるのは宿命。追われる立場となり「凄くやりにくいさはあった」と痛感した。優勝すれば五輪内定の可能性が高かったが、初の代表選考争いに「あまり考えないようにしていた。こんなにも過酷なんだと今、感じました」と厳しさを知った。
「自分自身怖がらずに攻めていけたらという部分があった。この負けをしっかり自分で受け止めて。まだまだレースは続くので、負けをしっかり受け止めることが、次につながると思うので、オリンピックに向けてまた練習します。自分の柔道をしっかり出すことが1番のポイント。最後はビビってしまった部分と、受け過ぎていた部分があった。自分の柔道をしたいなと」
8月の世界選手権以降、兄妹で稽古に励むことも多かった。小さい頃から背中を見せてきた兄と、それを追いかけた妹。しかし、初めて立場が逆転する期間だった。一二三は振り返り、妹の奮起を期待した。
「妹の存在は凄く大きかったですし、凄い悔しさがあった。妹が世界選手権で2連覇した。すっごい悔しい気持ち。僕が3位で、妹が優勝っていう上に行かれた形。それに対してすっごい悔しい思いをした。妹なんですけど、凄い悔しい思いがあった。
(稽古で)一緒になって、悔しさというか、妹を見ることによって凄く悔しさが出てきたり、それが悪いことかわからないけど、それで闘争心が燃えた。絶対に妹に負けてられないという思いでやれた。本当に切磋琢磨してやれたと思う」
男子66キロ級、女子52キロ級ともに今大会での内定者は出ず。来年2月までの主要国際大会終了時点の実績で判断されるか、4月の全日本選抜体重別選手権が最終選考会となる。ここからさらなる過酷な道が続いていく。
世界選手権から3か月。笑顔と涙の明暗は、兄妹で入れ替わった。一二三が敗れ、詩が2連覇を達成した直後、兄に向けて話していた。「お兄ちゃんは負けてしまったけど、まだまだ意地があると思う。諦めずもっともっと強くなって、もう一回私を引っ張る存在になってほしい」。期待通りに大きく成長した兄は優勝で応え、こう語った。
「(妹に)刺激をもらってきたし、今日の決勝は残念だったけど、妹の積み上げてきたものは、凄いものだと思います。またしっかり東京五輪代表を兄妹で手にして、兄妹で金メダルを獲りたいなと思います。まだまだここからだと思う。妹はまたさらに強くなると思うので、そこは僕自身も楽しみです」
3か月、兄は敗北からの“這い上がり方”を示した。幼い頃から追いかけた兄妹の夢。東京五輪金メダルへ、またも兄が引っ張る日々が訪れる。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)