カナダ国籍、出口クリスタの父はカメラマンだった 畳そばで初V撮影「守護神みたい」
緊張の会見も逃さず撮った父「彼女を誇りに思うよ」
芳田の応援団からは「行け、行け、芳田!」とリズムよく手拍子が鳴る。なかなか攻勢に転じられない出口は、延長1分30秒で寝技から腕を取られた。必死で守ると、続く同2分11秒には芳田に指導が付いた。直後の同2分26秒に出口が谷落で技あり。結局は上手く釣り手が持てず、いい姿勢を保てなかったが、計6分26秒の火花散る戦いを制した。
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「来年優勝するための何かを掴めたと思う。決勝は自分としては負けていたと思っているし、運で投げたとも思っている。もっと運ではなくて、着実に芳田選手と渡り合えるような選手になっていけるように克服して、もっといい試合がしたい」
日本育ちの23歳。山梨学院大の途中までは日本の強化選手だった。世界ランク2位まで上り詰めて迎えた今大会。心ない声が聞こえた時もあったが、努力した時間に偽りがないことを結果で証明した。
ハイレベルな戦いを演じた両者に送られる大歓声。初の世界一に輝いた新女王は、ほっとした表情で呼吸を整えながら畳を降りた。
「(国籍を)カナダにして、日本の観客の皆さんがどういう反応するか、いまいちわかっていない中での試合だった。思ったより声援が大きくて自分としてはありがたかった。力になりました」
試合後のメダリスト会見。最初に女王としての心境を問われ、約150人の報道陣の前でマイクを握った。「えっと…今、率直な気持ちは自分がまさか優勝できると思っていなかったので、驚いている次第でございます…」。慣れない環境でドギマギした表情も、会見場前方にいた父は逃さない。シャッターを切り、撮った写真を確認しては笑みを浮かべた。
「おととし、カナダ代表で戦うことを決めて2度目の世界選手権。東京開催で獲得できたので嬉しいし、男女通じてカナダ初の金メダルでとても嬉しく思っている。その第一人者になれたのはとても嬉しいことですし、これでカナダの柔道がもっと発展してくれたらいい。一番は自分を誘ってくれたカナダの関係者の方々に金メダルを持って帰ることができたのはとても嬉しい」
表彰台でカナダ国歌が流れた時、堂々と張った胸の金メダルがより一層輝いた。2年半前の決断に後悔はないことを感じさせた。
会見を終え、通路で親子のハグ。父は嬉しそうに言った。「優勝はアンビリーバブルだ。彼女を誇りに思うよ」。全てをなげうってでも目指したくなるのが五輪の魅力。1年後、美しく咲く愛娘の姿も、父は逃さないのだろう。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)