カナダ国籍、出口クリスタの父はカメラマンだった 畳そばで初V撮影「守護神みたい」
柔道世界選手権の3日目が27日、東京・日本武道館で行われ、カナダ国籍を取得した女子57キロ級の出口クリスタ(日本生命)が金メダルを獲得した。高校時代からのライバルだった日本代表の芳田司(コマツ)との決勝は、延長の末に技あり(谷落)を奪って執念の勝利。銅メダルに終わった昨年大会の準決勝で敗れた相手に借りを返した。
2年半前に国籍変更を決断、後押しした父に感謝「いつもそばにいてくれている」
柔道世界選手権の3日目が27日、東京・日本武道館で行われ、カナダ国籍を取得した女子57キロ級の出口クリスタ(日本生命)が金メダルを獲得した。高校時代からのライバルだった日本代表の芳田司(コマツ)との決勝は、延長の末に技あり(谷落)を奪って執念の勝利。銅メダルに終わった昨年大会の準決勝で敗れた相手に借りを返した。
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20分近くに及んだメダリスト会見の最後だった。海外メディアから女子金メダリストに質問が飛んだ。「本日はたくさんのファンの中でとても特別なファンが一人、畳ぎわにいました。その感想を教えて下さい」。事情を知らず、困惑する日本の報道陣。出口は少し照れながらも、胸の内にある感謝の思いを吐露した。
「なぜか父はカメラマンとしてそこにいるんですが…。日本で開催される大会、例えば去年の大阪のグランドスラムとか、いつもそばにいてくれている。なんだか守護神みたいに温かく見守ってくれています。自分としてはとてもありがたい存在です。ありがとうございました」
一人のカメラマンの目を見つめ、ぺこりと頭を下げる。隣に座った男子73キロ級金メダルの大野将平(旭化成)も柔らかい笑みを浮かべた。出口の父トーマス・テイラーさんは、カメラマンとして今大会を撮影。一番近いところで長女の輝く姿をとらえていた。試合も、会見も一挙手一投足を逃すまいと激写する。愛する柔道家が初めて世界の頂点に立つ瞬間を切り取った。そして、ファインダー越しに写った新女王から感謝のメッセージが飛んできた。
カナダ出身の父と日本人の母との間に生を受けた。長野・塩尻市で生まれ、地元の誠心館道場で柔道を始めたのは3歳の頃。体の大きな男の子に強引に投げられて背中を打っても、すぐに立ち上がって相手の袖を掴もうとする負けん気があった。そんな活発な少女の隣には、いつも大きな父がいた。
松商学園高時代は全日本ジュニアで芳田に勝って優勝。だが、次第に力で押す柔道が通じなくなり、大学では優勝から遠ざかった。芳田ら同世代の選手が世界で結果を残す一方で、自分は16年講道館杯で2回戦敗退。五輪への夢を諦めかけた頃に、カナダ代表コーチからの誘いを受けて岐路に立たされた。
国籍変更――。その選択肢に対し、夢を追う姿を心から応援してくれる家族や日本のコーチがいた。支えてくれる周囲の後押しで2017年1月に決断。全ては「東京五輪で金メダル」という自分の夢をかなえるためだった。
最大のライバル・芳田を倒さなくても五輪に出られる。だが、芳田を倒さなければ世界一にはなれない。迎えた決勝は、序盤から技を掛け合う緊迫した展開となった。「頭を下げず、なるべくいい姿勢でいく」。ライバルを研究し、内股を警戒した対策を練り込んだ。積極果敢に攻める芳田に対し、出口は守勢に回る。残り32秒で出口に指導が付いた。4分で決着がつかず、ゴールデンスコア方式の延長に突入した。