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代表98キャップの”鉄人”大野均が今、明かす 4年前、南アフリカに勝てた本当の理由

金星を挙げた南アフリカ戦を振り返る大野【写真:吉田宏】
金星を挙げた南アフリカ戦を振り返る大野【写真:吉田宏】

自信が確信に変わった南アフリカ戦金星

 大野がプレーしたテストマッチ98試合の中でも金字塔となっているのは、やはり15年ワールドカップの南アフリカ戦だ。日本ラグビーの歴史を塗り替えた34-32の勝利に、大野はどんな心境で挑んだのだろうか。

「もちろん、絶対に勝てるなんて思ってなかった。3度目だったのでワールドカップという舞台は慣れていたけど、やはり南アフリカが相手(日本にとって史上初の対戦)だというのは緊張しました。でも、ワールドカップまでの4年間でオールブラックスとやっていたし、ウェールズには勝っていたことが、どこかで自信になっていましたね。だから、全くかなわない相手とは考えてなかった。エディーさんのもとできつい練習もしてきたので、後はそれを信じてやりきるだけだという、開き直りに似た覚悟でグラウンドに出たのを覚えています。自分たちのやってきたものを全部ぶつければ何かしら起きるんじゃないかという、漠然とした自信みたいなのがありました」

 その漠然とした自信が、試合が進むうちに確信へと変化する。

「実際に試合が始まってみたら、自分たちのディフェンスシステムに相手がばっちりはまっている。セットプレーでも互角に渡り合えるし、モールでもトライを取れた。向こうがだんだんイライラしてるのもわかった。試合が進むにつれて、勝てるというマインドセットになっていったんです」

 大野が苦笑交じりに明かしたのは、南アフリカの選択ミスだ。このミスがなければ、あの勝利はなかっただろう。「もし向こうが、徹底してモールで勝負してきたら、相当難しい試合になったと思います。1本目、2本目とモールでトライを奪われて、『モールは止められないな』と感じていましたね」。パワー勝負では勝ち目がないと実感していたが、南アフリカはFW戦にこだわらず挑んできた。簡単に勝てるという慢心がそうさせたのか。結果的に日本代表が終盤まで食らいつく展開になったことが、劇的な逆転勝利につながった。

 最後の逆転の場面では、同点(引き分け)狙いのPGというジョーンズHCの指示をFLリーチ・マイケル主将が拒み、攻撃を仕掛けて逆転トライを奪ったが、後半途中でベンチに下がっていた大野は「実はPGでも、トライを狙いにいっても、どっちでもいいなと思っていました。でもスクラムでの手応えはあったし、向こうもFWが1人足りない状態だったから、スクラムでもおもしろいんじゃないかと考えていました。FWとしては、自信はありましたね。なので、リーチがスクラムを選択したときは、もう『ヨッシャ』という感じでした」と振り返った。南アフリカ側のミスもあったが、4年間の正当な準備がなければあの逆転はなかっただろう。

 大会直前に行われたジョージア代表との試合に、大野ほどもベテランでも、いかに必死にメンバー入りをかけてチャレンジしていたかを物語るエピソードがある。いつもはトレードマークの長髪を振り乱すようにプレーする大野だが、この試合だけはヘッドキャップを被って臨んだのだ。

「あの試合は先発で出してもらったんですけど、この試合で南アフリカ戦でジャージーが着られるか決まるという気持ちだった。それまでの2大会では開幕戦のメンバーには選ばれなかったので、今回は絶対にでたいという思いで、慣れないヘッドキャップを被って頭から突っ込んでやろうという思いでプレーしたんです」

 この強い思いがジョージア戦、南アフリカ戦での、大野の鬼気迫るプレーを後押ししていたのだ。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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