WBC世界バンタム級王座決定戦

　プロボクシングのWBC世界バンタム級王座決定戦12回戦が24日、江東区のTOYOTA ARENA TOKYOで行われ、同級1位・那須川天心（帝拳）が同級2位・井上拓真（大橋）に0-3（112-116×2、111-117）の判定負け。ボクシング転向8戦目でのスピード戴冠を目指していたが、格闘技キャリア55戦目で初黒星を喫した。戦績は27歳の那須川が7勝（2KO）1敗、王座返り咲きを果たした29歳の井上が21勝（5KO）2敗。会見に現れた那須川は「やってきた全て、悔いはないですね。全て出し切った」と語った。

　初回、魅せたのは那須川。終了間際、左オーバーハンドが井上の顔面をとらえた。直後のゴングで、両腕をぐるぐる回して飛び跳ねるなど余裕たっぷり。2回にも的確に顔面をとらえ、ノーガードになる場面もあった。だが井上も一歩も引かず、徐々にペースを握る。的確に右ストレート、ボディーなど着弾させ、8回終了時の途中採点では76-76、77-75、78-74の2-0で井上リードとアナウンスされた。

　キャリア豊富な井上が最後まで巧みな試合運びを見せ、判定へ。手ごたえ十分の井上は歓喜を爆発させ、リングコーナーに上がってガッツポーズを見せた。勝利を聞いた拓真は目に涙を浮かべ、那須川と称えあった。那須川は自身に声援を送ってくれたファンに向け、正座して頭を下げ“謝罪”した。

　会見で那須川は「本当にいろんな方に応援してもらって、結果にはつながらなかったが、やってきた全て、悔いはないですね。全て出し切った。たくさんの方に愛されているなと改めて思った。こういう試合ができて嬉しかった。ありがとうございました」と周囲への感謝を口にした。

　ジャッジ3者とも同点だった4回終了時の公開採点には「ドローだ、ドローだなと思った。プレッシャーをかけてくるだろうなと思った」と心境を表現。判定の結果について問われると腕を組み、天を見上げながら「いやー、こっから始まるなーという感覚になった。そんな感じです」「人生おもろいな、って思いました。率直に」と表情晴れやかに語った。

「悔しいですけど、前を向いていかないと。負けたことで世の中の人はいろいろ言うかもしれないが、自信をもってここまで仕上げてきた。堂々とやってきた。悔いはないし、ボクシングがまた好きになる一戦だった。また人生は続くし、堂々と生きていこうかなと。応援してくれた人には勝ちを見せることができず、正直……初めてだと思うんです。負けて悲しい気持ちで帰るというのは。申し訳ない気持ちはあるが、これも人生」

　敗因については「（相手の）距離感がうまかった。自分が練習しているものが出せない間合いだったり、距離感に拓真選手がいたというのが敗因かなと。出していないけど先手を取られているという感覚がずっとあった」と分析。「リベンジします。そこまで強くなって。（井上には）またお願いします、とは伝えました」と再起を誓った。敗れて引退を考えるかについての質問には「辞めないっすよ。それは一切ない。ダサいじゃないですか。負けて辞めますなんて。辞めないよ。やり続けます。それが自分の生き方だと思う。人間ですから、やり続けるしかないっすよ。やり返します。必ず」と強調した。

　那須川は格闘技戦績47戦全勝（キックボクシングは42戦）をもって、2023年にボクシングに転向した。翌24年10月の5戦目でWBOアジアパシフィック（AP）バンタム級王座を獲得。今年2月に元世界王者ジェイソン・モロニー（オーストラリア）に判定勝ち、同6月にはWBA同級6位だったビクトル・サンティリャン（ドミニカ共和国）に判定勝ち。無敗を貫き、世界戦初挑戦となったが及ばなかった。