球児の肘、肩を守るには― 広島の3連覇トレーナーが語る“野球現場のリアル”
2019年も球春が到来した。センバツ高校野球は東邦(愛知)が平成の最初と最後を優勝で飾るというドラマチックな結末を迎え、またファンが待ち望んでいたプロ野球のペナントレースも開幕した。連日、球場は超満員のファンで埋まっている。一方で今、野球界ではある異変が起きていることをご存じだろうか。
ジュニア世代の指導者、保護者必見の新連載「球児の未来の身体を考える」
2019年も球春が到来した。センバツ高校野球は東邦(愛知)が平成の最初と最後を優勝で飾るというドラマチックな結末を迎え、またファンが待ち望んでいたプロ野球のペナントレースも開幕した。連日、球場は超満員のファンで埋まっている。一方で今、野球界ではある異変が起きていることをご存じだろうか。
プロ野球の観客動員は増えている。2018年の観客動員はNPB12球団で史上最多を更新する2555万719人(レギュラーシーズンのみ)だった。だが、野球競技人口は大きく減っている。ここ10年で中学校の軟式野球部に所属する部員の数は約半減したというデータもある。
結果、野球の現場では今、何が起きているのか――。各チームで部員の減少が進む一方で、行われる試合数は変わらない。選手一人一人への負担は大きくなる。勝利を目指す以上、指導者は最善を尽くす。例えばチームのエースの投球回数が増えるのは必然だ。育成年代の大会は過密日程が増え、勝つために時には1日に連投するケースも出てくる。加えて、普段の練習時間も長い。
ようやく球数制限の導入へ向けた議論が活発に行われるようになってきたが、具体的には進んでいない。体が出来切っていない中学生、高校生が、そもそも指導者を含め正しい投げ方で投げられているのか、わからないケースも少なくない。肩や肘に負担がかかるが、当事者本人にとってはそれが怪我からくる痛みなのか、一時的な疲労なのか気づけない。仮に異変に気づいても、なかなか指導者に伝えることができないのが現状だ。弱音を吐いていると捉えられ、試合に出られないことになるかもしれない。だから無理して投げ続けてさらに患部が悪化する――。まさに負のスパイラルだ。
野球界は今、改めて選手の体と真剣に向き合う必要がある。「THE ANSWER」では「球児の未来の身体を考える」と題してセ・リーグで3連覇を成し遂げた広島東洋カープの石井雅也ヘッドトレーナーの話をもとに新連載を展開する。
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「いろいろな原因や要素はあると思いますが、近年ドラフトで入団してくる選手が、何らかの問題を抱えているケースが明らかに増加しています。特に肘関節においては靭帯や疲労骨折などの既往症のある選手が目立ってきています。このことは選手にとってはもちろんですが、球界にとっても大きな問題だと考えます」
リーグV3の広島ナインの体を支えたスペシャリストはこう警鐘を鳴らす。
「小・中学生では競技人口減少などもあり、勝つために競技能力の高い選手がたくさん試合に登板しなくてはいけない状況になっています。優秀な選手は、キャリアを上げていくことを望むと思いますし、指導者の方もその思いは同じだと思います。またチームの知名度が上がれば選手が多く集まり、チームの運営には大切な要素だと考えます。高校や大学などにも同じことが言えると思います。しかしながらこのことは、投球過多という大きなリスクを伴います」
育成段階の指導者にとっては、実績を出すことが最優先に求められる側面もある。少年野球で良い結果を出せば、有望なシニアやボーイズに選手を送り出すことができる。中学年代でも強豪高校へ、高校でもプロ、大学、社会人へ――。構図はすべて同じだ。もちろん指導者だけでなく、選手の多くも結果を出しステップアップしたい。基本的に“両者”の思いは共通している。
だから一概に指導者を責めることはできない。石井トレーナーも「指導者の方々は私財をなげうって、プライベートな時間を割いて心血を注いでおられます。情熱のある方ばかりです」と強調する。では問題はどこにあるのか。
「指導者に正しい情報が行き渡っていないことだと思います。ドクターや僕らが持っているノウハウを指導の現場にうまく伝えることができれば、怪我のリスクを下げ、結果としてパフォーマンスを、向上させることが期待できます。だから適切な情報を正しく発信していきたいと思っています」