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石巻に「幸せ」を― ラグビー元日本代表主将・菊谷崇らが被災地・石巻工で「夢応援」

5月13、14日。宮城県石巻市のラグビー場で熱心に高校生を指導する2人の現役ラガーマンの姿があった。石巻工業高校ラグビー部を対象としたラグビークリニックで、熱のこもった言葉が響き渡る。

「東北『夢』応援プログラム」でキヤノン菊谷崇と天野寿紀が熱血指導

 5月13、14日。宮城県石巻市のラグビー場で熱心に高校生を指導する2人の現役ラガーマンの姿があった。石巻工業高校ラグビー部を対象としたラグビークリニックで、熱のこもった言葉が響き渡る。

 この2日間は、1年間を通して継続してきた指導の成果を発表する日。といっても1年間、毎日直接の指導をしてきたのではなく、スマートフォン上の動画を通じて教えを受け、生徒たちが設定した目標に近付けるという画期的な方法で取り組んできた。今回を機に成果を振り返り、新たな1年の目標も設定する。

 プログラムの“コーチ”として指導をしてきたのは、ラグビートップリーグのキヤノンイーグルスに所属する菊谷崇(37)と天野寿紀(26)。菊谷は日本代表として2011年ワールドカップに主将として全試合に出場し、エディー・ジョーンズ率いるフル代表メンバーにも選出された経歴を誇る。一方、天野は高校日本代表に選ばれた経歴を持ち、現在はチームのスクラムハーフとして活躍している屈指のラガーマンだ。

 異色の指導に乗り出したのは、昨年だった。東日本大震災から5年が経過した頃、菊谷は被災地の支援活動が減少傾向にある中、「東北のために力になりたい」との思いから支援活動を決断。未来の東北を担う人材の育成を目的として、2016年3月に公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」に、キヤノンイーグルスの代表として賛同を表明した。

 プログラムを通じ、出会ったのが石巻工業のラグビー部員だ。当時は2年連続で宮城県大会決勝で仙台育英に敗れていたチームを、キヤノンイーグルスとして「花園出場」という目標をサポートすることになった。

目指すは「打倒・仙台育英」…目標を全員の前で個々に発表、その理由とは?

 今回も独自の指導を施した。13日は練習指導だけでなく、練習終了後にグループディスカッションを実施。生徒が自らの考えで行動に移してほしいという思いからだ。生徒を少人数のグループに分け、今のチームの特徴、花園出場の切符を得るためにどう行動すべきかなどを話し合い、各グループで発表。それぞれの意見を踏まえ、全員でチームの目標を設定した。

 最終的に生徒たちが掲げた目標は「打倒・仙台育英」。さらに、それを達成するために具体的な行動も挙げていった。

「ラグビー以外の日頃の生活においても挨拶をしっかり心がける」、「練習用具を磨いて大切にする」、「タックルバックに仙台育英のジャージーを着させる」、「次のプレーに移る時に相手よりも早く準備をする」、「対戦相手がいない普段の練習時には隣のチームメイトよりも早く準備をする」、「良いプレーをしたら褒め合いお互いを高め合う」などの様々な具体的な内容が出るまで、菊谷は生徒に問いかけ続け、意見を引き出していった。

 翌14日に行われた試合では、出し合った意見を行動に移す生徒たちの姿があった。試合には勝利することはできたが、まだまだやるべきこと、課題も多いと感じていた菊谷と天野は、試合後に再び部員たちを集めた。前日に定めた「打倒・仙台育英」のチーム目標に対し、今度は花園予選までの生徒個々の目標を考えさせ、全員の前で発表する目標宣言も実施した。

 個々の目標を発表させたのは、狙いがあった。「チームだけでなく、個人としても目標に対して具体的な行動に移すことで、“チームの誰かがやってくれるだろう”という考えをなくし、自らの意思で行動に移してほしい」と菊谷は話す。

 目標宣言後には、天野、菊谷それぞれから生徒たちへメッセージを送った。

2人が贈る言葉「一生一緒にやっていくチームのベースを高校3年間で作ろう」

「2日間一緒にいて、本気で仙台育英に勝ちたいという思いが伝わってきた。それと同時に僕自身もできることを精一杯して、仙台育英に勝って花園に出たいという思いが強くなりました。

 みんな想像してみてほしい。仙台育英に勝つことで、石巻の人を喜ばせることができる。幸せを与えることができる。それを自分たちができる立場にいるということ。そして、それを達成した時に自分たちがどれだけ幸せで嬉しいことか。

 それを達成するために今きついこと、しんどいこと、いろいろ乗り越えないといけない。それを仲間で助け合って、最後にみんなで笑えるように。僕も全力でサポートするし、みんなも今日立てた目標に向かって、一日一日を無駄にせずに、花園予選が終わった時に、みんなで笑えるように頑張ってほしい」(天野)

「仙台育英を倒すという目標に向かっていく中の具体的な行動に含まれていた『挨拶』。これを続けていくことが、被災地であるこの町を盛り上げることにも繋がっていくはず。それが、町を盛り上げるために頑張っているチームなんだと町の人が思ってくれる。そういう行動をやり続けることが、このチームの価値を上げるところにも繋がると思う。このチームがひとつになるために、もっと仲間になるためにやり続けること。

 そして、ここで一緒にやったメンバーは、これから先、監督や僕らの年齢になってもずっと変わらずチームメートだから。生涯の友としても一生一緒にやっていくチームのベースを、高校3年間で作っていこう」(菊谷)

 昨年は3年連続決勝の舞台で仙台育英相手に苦杯をなめる形となったが、今年こそは宮城県王者となり、花園の切符を勝ち取ることができるか。菊谷、天野をはじめとするキヤノンイーグルスと石巻工業の挑戦が再びスタートした。

【了】

ジ・アンサー編集部●文 text by The Answer
村上正広●写真 photo by Masahiro Murakami

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