12月11日に江戸川区陸上競技場で体験型イベント「One Rugbyにトライ」開催
「花マルでお願いします!」「よーし、行くぞ!」 キュッ、キュッ、キュッ、キュッ、ガッシャーン! 「ウワ~! すごい衝撃! ありがとうございました!」 驚きの声と金属が激しくぶつかる衝突音が絶え間なく響いたのは、12月11日、江戸川区陸上競技場でのこと。この日、冬晴れの澄み切った青空の下で開催されたのが「One Rugbyにトライ」という小中学生対象の体験型ラグビーイベントだった。
ラグビーから始まる「多様性」と「共生」 One Rugbyが子供たちに伝えたかったこと
「花マルでお願いします!」
「よーし、行くぞ!」
キュッ、キュッ、キュッ、キュッ、ガッシャーン!
「ウワ~! すごい衝撃! ありがとうございました!」
驚きの声と金属が激しくぶつかる衝突音が絶え間なく響いたのは、12月11日、江戸川区陸上競技場でのこと。この日、冬晴れの澄み切った青空の下で開催されたのが「One Rugbyにトライ」という小中学生対象の体験型ラグビーイベントだった。
ラグビーイベントでなぜ金属の衝突音が響いたのか。それは、このイベントで子供たちが体験したのは15人制ラグビーではなく、車いすラグビー、デフラグビー、ブラインドラグビー、タッチ&リーグラグビーだったから。衝突音の正体は、パラリンピックでもおなじみ車いすラグビー特有のタックル音というわけだ。
競技用の車いすに乗って実際に操作してみた子供たちは最後、現役選手によるタックルを体験。受けるタックルの強度を3段階の中から選べたのだが、最も強度の高い「花マル」をリクエストする子供も多く、経験したことのない衝撃を受けた後で嬉々とした笑顔を浮かべていた。
ひと味違うラグビー体験会を開催したのは、元ラグビー日本代表主将・廣瀬俊朗さんが理事を務めるNPO法人One Rugbyだ。ラグビーと言えば一般的には15人制が思い浮かぶだろうが、五輪競技の7人制の他にも、10人制、リーグ(13人制)、車いす、聴覚障がい者が楽しめるデフ、視覚障がい者が楽しめるブラインド、タッチ、タグ、ビーチ、そしてもちろん女子ラグビーなど様々な種類がある。同じ「ラグビー」を掲げるスポーツが協力し、みんなでラグビーを盛り上げていこうと活動すると同時に、多種多様なラグビーを体験することで、多くの人に「多様性」や「共生社会」について考え、実践するヒントを掴んでほしいという願いも込められている。
そんなOne Rugbyの活動趣旨に賛同したのが、東京パラリンピック全22競技を実施できる環境を整備した江戸川区だった。障がいの有無や年齢を問わず誰もがスポーツを楽しめる環境を目指す江戸川区では、共生社会を実現しようとユニバーサルデザインの街づくりや、住民の心のバリアフリー化を推進。国から「先導的共生社会ホストタウン」にも認定されている。ラグビーに造詣が深いという斉藤猛区長、そして江戸川区ラグビーフットボール協会の協力のもと、この画期的なイベントが実現した。
聴覚障がい、視覚障がいを疑似体験 非日常の体験に子供たちは驚きの声
午前と午後の2部制で行われ、小中学生あわせて120人ほどが参加した。前述の車いすラグビーでは、競技用の車いすに乗ってタックルを受けたり、パスをもらってトライを決めたり。初めて車いすでのタックルを経験した小学5年生の男子は「今まで感じたことのない衝撃にビックリしました。お腹をすごい圧力の空気で押された感じ。パラリンピックを見て興味があったので体験できてうれしかったです」と声を弾ませた。
緑が鮮やかな天然芝の一角では、デフラグビー日本代表の日野敦博さん、大塚貴之さんらを中心に言葉を使わないコミュニケーションに挑戦した。聴覚障がいを疑似体験できるイヤホンをつけた参加者は、ペアを組んだ相手に身振り手振りで指示を出し、4色あるうち正しい色のマーカーに置かれたボールを選ばせるのだが……。うまく指示が伝わらず違う色を選んだり、指示の出し方を考えているうちに時間が経ってしまったり。手話について学校で教わったことがあるという小学2年生の男子は「声を使わないで伝えることは難しいし、それでラグビーをするなんて想像ができません。すごいと思います」と驚きの表情を見せた。
ブラインドラグビー日本代表の神谷考柄さんらのもとでは、参加者は視覚障がいを疑似体験できるゴーグルを装着。視野が狭くなっていたり、白濁したり、まぶしさが増していたり、普段とは全く違う見え方に「怖い」「歩けない」という声も。ゴーグルをつけたままでのパスに挑戦する時には、神谷さんから「自分がパスを受けやすい位置で手を叩いたり声を掛けたり、音で知らせてみてください」とアドバイス。子供たちは文字通り、手探りながらもなんとかパスを繋いでみせた。
タッチ&リーグラグビーの体験スペースでは、タッチラグビー日本代表の奈良秀明さん、ラグビーリーグ日本代表の狩野堅太さんらの指導のもと、タックルのないタッチラグビーを実施。元々、タッチラグビーはラグビーリーグの選手がウォームアップとして始めたものが競技化されたと言われており、早いゲーム展開など共通点は多い。普段の練習でも取り入れられているタッチラグビーでは、子供たちは元気に声を掛け合いながら所狭しと走り回った。
廣瀬俊朗さん「楽しかったで終わらせず、日常生活に生かして」
午前の部と午後の部の間には、トークセッションを実施。斉藤区長、廣瀬さん、元車いすラグビー日本代表の三阪洋行さん、そして元ラグビー日本代表主将の菊谷崇さんが加わり、様々なラグビーの魅力についてトーク。タックルのないタッチラグビーについて、廣瀬さんは「ステップで相手を抜いたり、首や肩周りの動きだけでフェイントを仕掛けたり、いろいろな工夫ができる面白さがある」と指摘。高校時代にラグビーで負傷し、車いす生活となった三阪さんは「障がいがあっても工夫ひとつでラグビーを楽しめる方法が見つかる。できないと諦めるのではなく、できる方法を見つけることも大事。車いすラグビーは性別の差もなく男女混合という面白さもあります」と、共生のヒントを語った。
グラウンドのあちこちで大きな笑顔が咲いた1日を終えると、廣瀬さんは「みんなが楽しかったと言ってくれたことが大きな成果です」と充実の表情を浮かべる。
「今日の体験を『楽しかった』で終わらせず、プラスαとして日常生活に生かしてくれると嬉しいですね。例えば、街で困っている人がいたらサポートしたり、何気ない歩道の段差が車いすや視覚障がいの方には大変だと気付いたり、いろいろな人の気持ちになって考えられたら、みんなが住みやすい環境になる。様々なラグビーを体験することが、子供たちの学びに繋がることを願います」
コロナ禍の影響でなかなか体験会を開催できずにいたが、万全な感染予防対策を講じた上でようやく実現にこぎ着けた今回のイベントに、One Rugbyのメンバーは大きな手応えを掴んだようだ。来春には関西地区で同様のイベントを開催する予定があるという。ラグビーから始まる「多様性」や「共生社会」実現に向けた活動は、これから徐々に輪を広げていく。
【写真:荒川祐史】
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)