五輪メダリスト×元大リーガー なぜ、異色の2人は気温-10度の町で指導したのか
12月3日。気温はマイナス10度。雪景色が広がる小さな町には、活気があふれていた。日本の最北端・稚内に程近い北海道天塩町の体育館では、子供たちを熱く指導する2人の元トップアスリートの声が飛び交っていた。
迫田さおり×建山義紀…雪景色が広がる北海道天塩町で小中学生96人らにスポーツ指導
12月3日。気温はマイナス10度。雪景色が広がる小さな町には、活気があふれていた。日本の最北端・稚内に程近い北海道天塩町の体育館では、子供たちを熱く指導する2人の元トップアスリートの声が飛び交っていた。
「パスを届ける相手がどうしたら次のプレーをしやすいか、思いやってつないでいこう。何回失敗してもいい。チャレンジする気持ちが大事だよ」
子供たちに相手を思いやる気持ちを強く伝えていたのは、元女子バレーボール日本代表の迫田さおりさんだ。ロンドン五輪3位決定戦で23得点と大活躍し、28年ぶりのメダル獲得に大きく貢献。続くリオデジャネイロ五輪にも2大会連続出場を果たした。
「今すぐにわかってくれなくていい。これからの練習でチャレンジしながら自分の形を作っていこう」
もう一人、こう声をかけながら、挑戦する気持ちを熱く指導をしていたのは現役時代、日本ハムファイターズ、メジャーリーグのテキサス・レンジャーズなどで活躍した建山義紀氏だ。
五輪メダリストと元メジャーリーガー。なぜ、異色の組み合わせの2人が小さな町で指導をしているのか。背景には、ソフトバンク社が社会貢献事業の一環として取り組んでいる「ICT部活動支援」を天塩町が取り入れたことがある。
日本体育協会によると、全国の中学・高校では顧問の52%が担当部活の指導経験がなく、さらには40%が専門的な指導へ不安があるという。「ICT部活動支援」は、そんな競技・指導経験がない体育の先生や部活動の顧問、生徒により高いレベルの指導が必要な先生に向け、部活動を取り巻く課題をICTで解決し、子供たちがより良い指導を受けられる環境を整えること。そして、スマートフォンやタブレットを活用し、アスリートやプロコーチから遠隔指導が受けられるというプログラムを全国で展開をしている。
「恥ずかしがり屋で泣き虫…」、建山氏が説いた「弱さ」との向き合い方
今回、天塩町が主体となり、将来を担う子供や保護者にスポーツマンシップの精神を浸透させたいという思いから「スポーツマンシップ チャレンジ2017 in 天塩」を開催。町内の小中学生96人を含む、総勢250人が天塩町ファミリースポーツセンターに集まった。天塩町では、バレーボール、野球、レスリングが盛んで、この思いに賛同した建山氏と迫田さんが指導に駆け付けたのだ。
迫田さんはレシーブ、トス、スパイク、サーブ練習を中心に仲間を思いやる気持ちを強く子供たちに伝えた。建山氏は、バッティング、ピッチングの基礎練習を中心に、一球の重みや大切さを強く伝え、約3時間に渡り指導を続けた。
バレー指導を終えた迫田さんは「いつもはバレー経験者やバレーボールを全く触ったことのない子供たちとバレーをするのですが、今回はスキー、レスリング、野球だったりと、色々なスポーツをされている選手の方と一緒にできて、新しい経験ができました。特に野球はバレーボールと似ているなと思う点がたくさんあったので、自分にとっても新しい経験になりました」と話した。
一方で、メジャーリーガーとして大舞台で投手として活躍してきた建山氏は「小学生時代、授業で先生に当てられないように隠れていた子供だった」と意外な過去を告白。「本当に恥ずかしがり屋だし、緊張もするし、泣き虫だし……。スポーツに向いていないじゃないかと思いながら過ごしていた。性格は歳を重ねるごとに、自分の弱さを知って、受け入れて、前向きに取り組んでいこうとなれたので、自分の弱いところ、ダメなところ、いけないところを知るというのは大事だと思う」と続けた。
今回、天塩町の子供たちにスポーツマンシップに関する講義を担当した千葉商科大・中村聡宏氏から、スポーツをしていて良かったと感じたことを建山氏と迫田さんに投げかけると、2人は子供たちにこう語りかけた。
迫田さんが伝えた「バレーをやっていて本当に良かったと思う瞬間」とは
「まず、スポーツをしていく上で、辛いこと大変なことはたくさんある。野球という団体競技で過ごし、仲間たちと一緒に乗り越えてきて、最終的にはずっとずっと心で繋がっていける友達になれるところは、スポーツを一生懸命やっていて、副産物じゃないですけど、いただいた形だと思う。スポーツで身に付いたことは、弱い自分を知って強くなれた。
僕は小学校の頃からずっと緊張しやすくて、なかなか試合で結果を出せず、『お前はいつも練習ではいいのに、試合ではダメになるな』と指導者方にも言われて、さらにダメになったり、落ち込んだりした時期もあったけど、自分の弱いところを知って強くなれた。それを認めた上で何をやっていくか。課題を明確にして、淡々と取り組めたから強くなれたと感じています」(建山氏)
「みんなバレーボールにしろ、野球にしろ、スキーにしろ、レスリングにしろ、優勝したいという思いがあると思う。それに向かって、みんなで何かを達成する瞬間を感じられたことが、本当にスポーツをしていて良かったと感じられるところです。
たとえ、結果が出なくても、みんなでそれに向かって頑張れたという目には見えない絆が生まれたことは、バレーボールをやっていて本当に良かったと思う瞬間でした。私は、本当に仲間に恵まれて、ここまでやってこられました」(迫田さん)
実際の体験を振り返りながら、思いを明かすと、子供たちも目を輝かせながら、うなずいていた。そして、最後に閉会式では参加した子供、保護者に向けてスポーツをする上で大切なことを言葉にして残した。
侍ジャパンコーチ・建山氏が明かした日本代表チームの「一つの約束事」
「今日は一番大きなテーマとして、スポーツマンシップがありました。僕は11月に侍ジャパンのコーチとして、ベンチに入っていたけど、その時に日本代表チームの中に一つ、決まりがありました。それは、審判のジャッジに対して、文句を言うのはやめようということ。侍ジャパンでは、文句を言わずにすぐに切り替え、次の一球に集中して、やっていこうという約束事がありました。
負けた時は色々見られている。相手を尊重する気持ち、仲間を励ます気持ちをしっかり持って、一生懸命取り組んでほしい。一生懸命やっても勝てないこともある。でも一生懸命やって負けたら、どうやったら次勝てるか、課題が見つかります。それを克服できた時に、次、みんなは勝てると思います。そういうことを思い、色々な事にチャレンジしていってください」(建山氏)
「みんなスポーツが好きだと思います。私も好きです。私はアタックが得意、でもレシーブは苦手だった。みんなも得意と苦手があると思います。その苦手な部分を一生懸命、頑張ってできるようになることが、今の自分を超えること。今の自分よりも成長できるように。私も色々なことにチャレンジをしながら、さらに今の自分を乗り越えていこうと思っている途中です。
みんなが乗り越えた瞬間、一番喜んでくれるのが、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、兄弟を含めた家族だと思います。一人でやっているかもしれないけど、喜んでくれる人たちはこんなにたくさんいるんだということ。そして、感謝の気持ちを忘れずに、これからもスポーツを楽しんでもらえたら嬉しいなと思います」(迫田さん)
初めて訪れた天塩町で、元トップアスリートの2人が残した言葉は、子供たちがスポーツをしていく上でかけがえのないものになっただろう。
(THE ANSWER編集部)